「いちいち記念日とか面倒だし、機嫌とるのもウザイだけだし、女にとって俺は付属品みたいなもんだし、俺はセックス出来たらそれで良いし。余計な事だと思わない?」
当然のように答え合わせのような価値観を投げられても、全く理解できない。
……だからあたしが"ちょうど良かった"なのかな。
でも、それは。
「……虚しくないの?」
不可思議に尋ねれば「虚しいより、楽な方が良いんだよね」その人は階段で後ろ手をつき天を仰いだ。
「……それを、女のあたしの前で言うことないのに」
「ひなは女っつーか、なんだろ、子犬みたいな」
「犬!?」
「そうそう、撫でたくなる」
片桐先輩は、ぽん、とあたしの頭に手のひらを乗せるので「撫でなくていいです」慌てて身動ぎをして、心を結ぶ。
「……先輩のことは、好きにならないほうが良いってことがよく分かりました」
「ん、よくできました」
丁寧に目じりを下げて、無害そうな笑顔を浮かべる片桐先輩。
予鈴の音色が届いた。あたしはすっくりと立ち上がり「失礼します」他人行儀の挨拶をすれば「またね〜」なんて、いつもの調子で彼は告げる。
一度も振り返ることなく、階段を駆け下りた。
笑顔の内側の心。あの一言が、耳にこびりついて離れない。
人のこころっていうのは、見えもしないし、他人には全く分からない。分かろうとはできるのに、あの人はちっとも見えない。
……だったら、なんで。
……面倒な事までして、あたしの言うことは、聞くのだろう。



