恋花ロマンチカ

膝の上に座るこの状態も恥ずかしいけれど、もっと嫌なのは、嗅ぎなれたその香りに混ざった女性物の残り香。

「話、きいて」

彼にしか聞こえない程度のボリュームで告げると、どんどんと胸板を叩いた。だけど、片桐先輩は手を緩めもしないし返事すらしない。

ちゃんと返事してって、ルールに書けばよかった。

上辺ばかりじゃ分からなかった。すこし彼のことを知ってから作るべきだった。こんな後悔、あと、何度すれば良いのだろう。


「もっかい言うけど、いつの話してんの?なんで知った気になってんの」


次に聞こえたその声は、すこしの毒気を孕んでいた。

途端に空気が薄くなる。だから、押し退けようとしていた手はぴたりと止んだし、調子よく返事をしていたその声も消えた。

どんな顔でこんな声、出してるんだろう。

見たいけど、悔しいかな、見ることは叶わない。

どうすることも出来なくって、なんなら呼吸さえ潜めていれば「……帰ろーっと」「ばいばーい」たった二言で事態は収束してみせる。

ちら、と、横目で見れば、その人の後ろ姿がみえた。

踊り場でその人が向きを変えれば、対面したその瞳があたしとぶつかる。

瞬間、その瞳は汚いものでもみるかのように細くなるから、慌てて目を逸らした。