恋花ロマンチカ

張り付いていた腰を持ち上げた。

勝手にしてろって、逃げるように立ち去ろうとした。

だけど、身体は前に出なかった。足は出したのに、腕が付いてきてくれなかったからだ。

驚いて振り向ると、腕を掴んで離そうとしないその人は、膝の上の女子生徒ではなく、あたしだけを見ていた。

「なんで帰ろうとしてんの」

やっぱり、こんな時も片桐先輩の声は耳障りが良いから、すぅっと耳に入り込む。

なんでか安心しかけた心を結ぶみたいに、下唇を噛み締めた。


「え、本気でどうしたの巧」

その人が笑い混じりの声を出すと、彼はその人を腕で押しのけるから、膝の上が空になる。


「ねぇ、彼女居ても平気って、いつの話してんの」

「ちょっと前までそうだったでしょ?」

「俺、あの後彼女作ってないんだよね、で」

言葉と同時に強い力で引き寄せられるので「わっ」短く声が漏れると、すとん、と、横向きの身体が彼の膝の上に乗る。

目の前に来た彼の胸元、爽やかな甘い香り、近寄る熱。一瞬で、さっきとは別の心臓の音が耳に張り付く。

「は、離して」

身動ぎして胸板を叩くけれど、背中に回された腕は片腕なのに、ぴくりともしない。

「今の彼女、この子ね?」

軽い声が、すぐ真上で聞こえた。