恋花ロマンチカ

すんでのところで、片桐先輩の手のひらがその人の口を覆った。我に返って落ちたそれを拾い上げると、なんだか見てはいけないものを見た気がして、視線をうろうろとさ迷わせる。


「いや、なにしてんの」

「え、だめ?」

「いま彼女といるんだけど、俺」

「は?」


短い声が聞こえると話し声が消えるから、時間をかけてそちらを振り向く。やはり、大人っぽくて綺麗な女の人はあたしを一瞥すると「へぇ〜」口角を上げてはぴたり、片桐先輩にすり寄った。

いやに、心臓が鳴る。ちょっとうるさいくらいだ。

……そもそも。


「まーだ付き合ってたの?」

「そうだよー」


片桐先輩があたし以外の人としたら、関係は破綻するんだ。ってことは、おじゃま虫はこのまま退散したら、あたしは開放されるんじゃないの?

それがいい、ぜひ、そうして欲しい。

こんなの見たくないし、聞きたくもない。


「嘘でしょ、もう別れたと思った」

「そ、事実確認とれて良かったね」

「てか、彼女居ても平気なのが巧のいいとこじゃん?別良くない?」


クスクス、と、微かな笑い声が嫌に鼓膜にこびり付く。


……聞きたくない。