「待って。初耳なんだけど、兄ちゃんいるの?」
「一応……」
片桐先輩と同じ学年なんだけどな。でも、一緒にいる所をまず見かけないし、多分、仲悪いんだ。
「同じ学校?」
「…………一応」
大体、キラキラ星人の片桐先輩とうちの兄は縁もゆかりも無いはず。お兄ちゃん、死んだ魚の目してるし、無気力だし無愛想だし猫背だし。
……なのに彼女はいるし。一体どういう原理なんだ。
脳内に腹立たしい兄の顔を思い浮かべていれば「もしかして」セリナの声により、脳内を占拠していたそれが消えて、首を持ち上げたとほぼ同時だった。
「……あ、常葉《ときわ》先輩」
どこからか聞こえてきた声に一瞬で目が釣られてしまえば、遠目なのに、ひと目でその姿を捉える。
渡り廊下のまんなか、ちょうど、空を横切るみたいに歩く二人組の男子生徒。
片方は、チョコレートみたいな色の緩いパーマヘアー。四月からもう、何度も見掛けるのに、ハスキーな声が告げたあの言葉が心にストッパーを掛けて、声をかけることすら叶わない、人。
……もう、話すことも出来ないのかなぁ。



