「そーだな、ひなだけじゃあフェアじゃないから、俺は、ひな以外の女とヤらない」
ハートを語尾にくっつけたような声は、耳を疑いたくなるような言葉を聞かせる。
「え?そんな、悪いですよ〜」
はは、と、乾いた笑い声が喉の奥から漏れた。
ご自由に遊んでいただいて結構だし、なんなら酷いお付き合いされていたようだし、あたしにもそれで大丈夫なんだけど、なあ。
引き攣った笑顔しか出ないあたしと打って変わって、爽やかな笑顔を浮かべる片桐先輩。
ひゅ、と、あたし達の間を縫うすきま風が彼の黒髪を撫でるように吹き抜けた。生理的に目を閉じ、耳から零れた後れ毛を抑えた一瞬の事だった。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、そこに映る笑顔は、種類がまるで別物だった。
煽るように顎をくい、と、傾けて、あわい色気が滲んだ漆黒の瞳。
それは、まるで、
「1ヶ月おすわりして待ってたら、ご褒美ちょうだいね」
そうなる未来が見えているのか、彼は得意げに言って聞かせるのだ。
「……あ、あげるわけ」
「あ、予鈴。じゃあ、そういうことで。」
いつも、予鈴が聞こえても、お尻がコンクリートに貼り付いたようにびくともしないのに、今日の片桐先輩はひょい、と軽々しく立ち上がって、勝手に階段を降りて行く。
ぽつん、取り残されたあたしは、まんまると口をあけたまま…………コンクリートにおしりが引っ付いていた。
…………なに、いまの。
え、なんだろう、既に負けた気分なのはあたしだけ?
……て、早く戻らなきゃ!
寸分遅れて、思考がいつものそれに戻るから、慌てて身体を動かした。



