杉原会長もこれにはとうとう折れて、祖父である総帥に縁談として本格的に話をしてきたのだ。

 玖生にとって、妹同然の亜紀に対して恋愛感情などない。ただ今までは亜紀を言いくるめればよかったが、今回は縁談として祖父を通じ、杉原会長から話がきているとなると適当にあしらうことが出来なくなった。

 「玖生君。久しぶりだ。会うたびに男ぶりが上がっていく。亜紀の諦められない気持ちもわからんではない」

 「……杉原さん。お久しぶりです。いつもありがとうございます。この間の問題もおかげさまで無事解決しました」

 「そうか。お役に立てて何よりだ。もはや、本業以外で君にアドバイスすることもなくなった。そろそろ総帥がおっしゃるように頃合いだろう。決心したのだろ?」

 「そうですね。父がどうしても継承を拒んでいるのでしょうがないです」

 杉原は向かい合ってソファで背中をつけて座った。

 「まあ、しょうがないだろうな。私も何度かお父上とは話しているが、十年前ならいざ知らず、財閥内の重鎮達が君じゃないと納得しないだろう」