ガサっと乱暴に土を踏む音がしたかと思うと、レヴィアたちがやって来た森の木々の影から、五名ほどの男達が現れた。
手には剣やナイフを持っており、こちらに向ける視線も殺気立っている。
人相もどことなく一般人とは違う。
どう見ても領民ではない。
男達のリーダーと思われる男が、こちらに向かってきた。相手が動きを見せたことで、セイリスは剣を抜き、レヴィアを背中で守るように男と対峙する。
男はセイリスと少し距離を置いた場所で立ち止まると、周囲にいる仲間達に向かって叫んだ。
「男は殺せ! 女は生け捕りにしろ! 依頼主の希望だ!」
(依頼主……?)
この男たちは誰かからの依頼で、セイリスを殺そうとしているのだ。
一体誰がと考える間もなく、男達がセイリスに襲い掛かった。恐怖で体が強ばり、動けなくなるレヴィア。
一番早く向かってきた男が、真っ先に剣を振りかざした。
恐怖で目を瞑った瞬間、金属がぶつかり合う音がしたが、恐れていた痛みはない。
恐る恐る目を開けると、レヴィアの足下に血を流し呻き声をあげる男が転がっていた。喉の奥から出そうになった悲鳴を、両手を口でふさぐことで必死で押し止める。
セイリスが持っている剣が血で濡れていた。どうやら襲い掛かってきた男を、彼が返り討ちにしたようだ。
一瞬で仲間がやられたからか、男達は武器を構えながらいったん立ち止まり、遠巻きでセイリスを睨みつける。
攻撃の隙をうかがっているのだろうか。
セイリスが、後ろにいるレヴィアに囁いた。
「レヴィア、ここは私が食い止める。あなたは隙をみて馬で逃げ、待機している護衛たちにこの件を知らせて欲しい」
「そ、そんな! あなた様を一人残していくわけにはっ‼」
「あなたを守りながら戦えない」
「っ‼」
自分はセイリスにとって足手まといでしかない。
厳しい言葉だったが、事実だ。
レヴィアは意を決し、大きく頷いた。セイリスは男たちを睨み付けながら、レヴィアを庇いつつ、じりじりと馬の方へと移動する。
その間に、レヴィアはセイリスからナイフを受け取った。これで馬を繋いでいる綱を切れということなのだろう。
男たちが再び飛びかかって来た。
敵の攻撃が、セイリスに集中する。
「今だ、行けっ‼」
「は、はいっ‼」
この場にいた者たちがセイリスに飛びかかったため、馬が繋がれている場所には誰もいない。チャンスだと、ナイフを握りしめながら走るレヴィア。
(大丈夫……あれだけの剣の腕前をもたれている方だもの! 負けるなんてことは……)
少なくとも、セイリス一人であれば存分に戦えるのだ。
祈るような気持ちで、レヴィアは全速力で馬へと駆け寄った。
しかし、繋いでいた綱を切ろうとナイフを振り上げた瞬間、横から強い力で手首を掴まれた。驚きと痛みで、握っていたナイフが地面に落ちて突き刺さる。
「女を捕まえたぞ!」
男がレヴィアの手首を掴んでいた。
放たれる殺気と血走った目を見る限り、レヴィアたちに襲い掛かった男達の仲間のようだ。今まで隠れていたのだろう。
敵がいなくなったと警戒を怠った自分が悔しくて堪らない。
男はすぐさまレヴィアの両腕を後ろにして掴むと、半ば引きずるようにセイリスの前に連れて行った。
捕まったレヴィアを見たセイリスの動きが止まる。
次の瞬間、彼の鳩尾に蹴りが入った。
苦しそうに腹を押さえながら、セイリスは地面に膝をつく。だが握った剣は手放すことなく、苦しそうに息を吐きながらレヴィアを捕まえた男を睨みつけている。
そんな彼の反抗的な態度が癪に障ったのか、先ほど殺された仲間の敵なのか、別の男がセイリスの頭を横から蹴った。
「や、止めてっ‼ もう止めてっ‼」
自分が人質になったことで戦うことができなくなった夫に与えられる暴力を前に、レヴィアは懇願するしかできない。
何もできない自分の無力さが、増えていくセイリスの傷としてつきつけられる。
男達の暴行が止まったかと思うと、うつ伏せに倒れていたセイリスの首元に剣が突きつけられた。
しかしセイリスは、辛そうにしつつも顔をあげ、レヴィアを捕まえている男を睨みつけながら口を開いた。
「……彼女を、どうする、つも、りだ」
「この女か? 依頼人の元へと連れて行く」
「い、いらい、に……ん?」
「ああ。依頼人は大層ご立腹だったぞ。狙っていた女を、お前に横取りされたとな」
それを聞き、レヴィアの全身から血の気が引いた。
男の言う依頼人とやらが誰か、心当たりがあったからだ。
手には剣やナイフを持っており、こちらに向ける視線も殺気立っている。
人相もどことなく一般人とは違う。
どう見ても領民ではない。
男達のリーダーと思われる男が、こちらに向かってきた。相手が動きを見せたことで、セイリスは剣を抜き、レヴィアを背中で守るように男と対峙する。
男はセイリスと少し距離を置いた場所で立ち止まると、周囲にいる仲間達に向かって叫んだ。
「男は殺せ! 女は生け捕りにしろ! 依頼主の希望だ!」
(依頼主……?)
この男たちは誰かからの依頼で、セイリスを殺そうとしているのだ。
一体誰がと考える間もなく、男達がセイリスに襲い掛かった。恐怖で体が強ばり、動けなくなるレヴィア。
一番早く向かってきた男が、真っ先に剣を振りかざした。
恐怖で目を瞑った瞬間、金属がぶつかり合う音がしたが、恐れていた痛みはない。
恐る恐る目を開けると、レヴィアの足下に血を流し呻き声をあげる男が転がっていた。喉の奥から出そうになった悲鳴を、両手を口でふさぐことで必死で押し止める。
セイリスが持っている剣が血で濡れていた。どうやら襲い掛かってきた男を、彼が返り討ちにしたようだ。
一瞬で仲間がやられたからか、男達は武器を構えながらいったん立ち止まり、遠巻きでセイリスを睨みつける。
攻撃の隙をうかがっているのだろうか。
セイリスが、後ろにいるレヴィアに囁いた。
「レヴィア、ここは私が食い止める。あなたは隙をみて馬で逃げ、待機している護衛たちにこの件を知らせて欲しい」
「そ、そんな! あなた様を一人残していくわけにはっ‼」
「あなたを守りながら戦えない」
「っ‼」
自分はセイリスにとって足手まといでしかない。
厳しい言葉だったが、事実だ。
レヴィアは意を決し、大きく頷いた。セイリスは男たちを睨み付けながら、レヴィアを庇いつつ、じりじりと馬の方へと移動する。
その間に、レヴィアはセイリスからナイフを受け取った。これで馬を繋いでいる綱を切れということなのだろう。
男たちが再び飛びかかって来た。
敵の攻撃が、セイリスに集中する。
「今だ、行けっ‼」
「は、はいっ‼」
この場にいた者たちがセイリスに飛びかかったため、馬が繋がれている場所には誰もいない。チャンスだと、ナイフを握りしめながら走るレヴィア。
(大丈夫……あれだけの剣の腕前をもたれている方だもの! 負けるなんてことは……)
少なくとも、セイリス一人であれば存分に戦えるのだ。
祈るような気持ちで、レヴィアは全速力で馬へと駆け寄った。
しかし、繋いでいた綱を切ろうとナイフを振り上げた瞬間、横から強い力で手首を掴まれた。驚きと痛みで、握っていたナイフが地面に落ちて突き刺さる。
「女を捕まえたぞ!」
男がレヴィアの手首を掴んでいた。
放たれる殺気と血走った目を見る限り、レヴィアたちに襲い掛かった男達の仲間のようだ。今まで隠れていたのだろう。
敵がいなくなったと警戒を怠った自分が悔しくて堪らない。
男はすぐさまレヴィアの両腕を後ろにして掴むと、半ば引きずるようにセイリスの前に連れて行った。
捕まったレヴィアを見たセイリスの動きが止まる。
次の瞬間、彼の鳩尾に蹴りが入った。
苦しそうに腹を押さえながら、セイリスは地面に膝をつく。だが握った剣は手放すことなく、苦しそうに息を吐きながらレヴィアを捕まえた男を睨みつけている。
そんな彼の反抗的な態度が癪に障ったのか、先ほど殺された仲間の敵なのか、別の男がセイリスの頭を横から蹴った。
「や、止めてっ‼ もう止めてっ‼」
自分が人質になったことで戦うことができなくなった夫に与えられる暴力を前に、レヴィアは懇願するしかできない。
何もできない自分の無力さが、増えていくセイリスの傷としてつきつけられる。
男達の暴行が止まったかと思うと、うつ伏せに倒れていたセイリスの首元に剣が突きつけられた。
しかしセイリスは、辛そうにしつつも顔をあげ、レヴィアを捕まえている男を睨みつけながら口を開いた。
「……彼女を、どうする、つも、りだ」
「この女か? 依頼人の元へと連れて行く」
「い、いらい、に……ん?」
「ああ。依頼人は大層ご立腹だったぞ。狙っていた女を、お前に横取りされたとな」
それを聞き、レヴィアの全身から血の気が引いた。
男の言う依頼人とやらが誰か、心当たりがあったからだ。