(ああは言われたけれど、やっぱり気になるわ……)

 退室し、部屋に戻ったレヴィアだったが、どうしてもセイリスの具合が気になっていた。名を呼ばれたことが、何故かずっと引っかかっているのもある。

 悩んでいても仕方ない。

(少しだけ……ほんの少しだけ窓から覗いてお休みされてるのを見届ければ、私も安心できそう)

 とのことで猫になると、窓からセイリスの寝室に向かった。

 部屋はわずかに灯りがついていて、ベッドに横たわっているセイリスの姿が見えた。きっと光が灯されているのは、彼の世話をするときに困らないようにするためだろう。

(もうお休みになられたようね。よかった……)

 特に問題がなさそうなので立ち去ろうとした時、セイリスがみじろぎしたかと思うと、パチッと目を開いた。
 カーテンの隙間から部屋の中を覗くレヴィアと目が合ってしまい、

「……お前?」

 そう言ってセイリスがこちらにやってきてしまったのだ。

(な、何故気づかれたの⁉︎)

 この男、あまりに猫に敏感すぎないか? と思いつつも、開けてくれた窓から中に入ると、音も立てずに絨毯の上に着地した。

「散歩か? 喉が乾いているだろう?」

 どうやらレヴィアの猫が夜の散歩途中、たまたまこの部屋を見つけたのだと思っているようだ。

 いつものように世話を焼こうとするセイリスだが、彼は病人。
 これ以上、彼に無理をさせてはいけない。

 見つかっただけでなく、安静にしなければならない体を動かさせてしまった自身の失態に後悔する。

 レヴィアは彼の足元をするりと抜けると、ベッドの上に飛び乗って丸くなった。
 こうすれば、猫好きのセイリスのことだ。

「何だ? ベッドが珍しいのか?」

 そう言って笑いながら、セイリスもベッドにやってきて、横になった。

「悪いな。今日は櫛で梳かしてやれなくて」

 レヴィアはニャーと鳴いて答えると、少しでも元気づけたくて、セイリスの手に頭を擦り付けた。

 黒猫の友好的な態度に、セイリスの口元が緩む。
 彼の手がレヴィアの頭を優しく撫でた。

「お前良かったら、少しだけここにいてくれないか? お前のご主人の代わりに」
(えっ?)

 驚きでわずかに毛が逆立った。

(ご主人の代わりって、私のこと? セイリス様は、私に側にいて欲しかったの?)

 レヴィアの名を呼んだ後にあった空白が思い出された。

 あのときレヴィアに寝室に戻って休むように言ったが、もしかすると側にいて欲しいという希望を伝えるか迷っていたのではないか。

(そう仰ってくだされば、喜んで付き添ったのに……)

 病気になると誰でも不安になるものだ。人の温もりを求めても、何ら不思議ではない。だけどそれを素直に出せないのが、この男なのだ。

 レヴィアは一声鳴くと、丸くなった。

(こ、これって、添い寝……になりますよね?)

と、ドキドキしながら。

 窓は開いているから、セイリスが寝たタイミングを見計らって出ていけば大丈夫だろう。

 そう計画すると、目を閉じて穏やかな表情で眠る夫の横顔を見つめた。