「こんなことなら、もっとはやくに彼女に出て行ってもらうのだった。だが、彼女も嫁いできてすぐに離縁されると王宮に戻りにくいだろうと、いらぬことを考えてしまった。それがアダになるとは……。いや、いっそほんとうの気持ちを伝え、あっさりフラれてしまえばよかった。年甲斐もなく以前王宮で一度だけ見かけた彼女に一目惚れをし、今回の話が舞い込んできたときに躊躇せずに受けたということを告白すればよかった。彼女にとっては政略結婚だが、おれにとってはなにものにもかえようのない真実の結婚だったということもだ。いずれにせよ、彼女が知ったらよりいっそう失望するだろうな。だが、彼女が目を覚ましたら伝えるつもりだ。すべてをな。そして、いさぎよくフラれるのだ。だから、アール。おまえも彼女がすぐにでも目を覚ますよう、祈ってくれ」

 彼の言葉のすべてが終った瞬間、頭と胸の中の何かが弾けた。すると、体中になにかが広がった。熱くてやさしくて愛おしくて尊いなにかが。