「将軍」

 ハッと見上げると、目の前に侯爵が立っている。

 ひえええええっ。将校服姿の彼は、いつにも増して威圧感がある。

「譲ってもらってすまないな」
「お気になさらず。将軍はこいつと仲がいいですからね。引き取っていただいてうれしいですよ。こいつも、その方がしあわせになれます」
「そうだな。わが軍の一番の功労者だ。余生はゆっくりすごしてもらおう」

 侯爵は、強面にやさしい笑みを浮かべてまたこちらを見おろした。

 そのやさしい笑顔にドキッとした。

 一度たりとも見せてくれたことのない笑顔だったから。