「バカね、わたしって。だまされていると心のどこかで思っていたのに、それでもノーマンを信じていたのだから。だけど、せめて彼の真意を知りたい。せっかくここまで来たのだから」

 まだ裾をくわえたままのアールに告げた瞬間、彼はそれを放して四肢を踏ん張りうなり始めた。

「おやおや、まさかほんとうに来るとはな」

 一瞬にして凍り付いてしまった。

 大げさではなく、体が委縮して動けなくなってしまった。

 その声がだれのものなのか、わかりすぎるくらいにわかっている。

「へー、このレディが今度の獲物? ダウリング侯爵の奥さん? やけに若いな」
「政略結婚ってやつらしいぞ。上流階級も大変だな」

 すぐうしろにいるのはノーマンだけではないみたい。彼の仲間か友人か、とにかく数名いる。

「せっかく来てくれたんだ。歓迎するぞ」

 うしろからノーマンがわたしの腕をつかみ、無理矢理彼の方を向かせた。