ダウリング侯爵邸の居心地は決して悪くない。

 使用人たちの目がある為、部屋は侯爵の続きの間を使わせてもらっている。とはいえ、主寝室に負けず劣らず広い。けっして華美ではないし、置いてあるものも豪華すぎるわけではない。

 控えめだけど機能的。そういう家具や物が、ちょうどいい感じに配置されている。

 王宮であてがわれていた部屋は、その昔は使用人部屋だったところで、いまは使われていない部屋だった。その部屋は、王宮内でもだれも来ない忘れ去られた奥庭のそのまた奥にあった。

 それでも、その部屋にいるかぎりは、王宮内のあらゆる人々の悪意にさらされることがなかった。だから、古さや不便さは平気だった。