「いらっしゃいませー! 二名様ですね!」



 正午を過ぎて、一年一組のクレープ屋は来客が途絶えなかった。
 接客担当の恭平が今、他校の制服を着た女子二人を教室内に案内しているところだったが、廊下にはまだ三組ほど列を成している。



「一条くん効果すごいね〜」
「はは……だね」



 教室の後ろにパーテーションを設けて、その内側でクレープを作っている調理担当チーム。
 お客さんがとめどなく来店し、次々と注文が入ることに梨田が驚いていると鞠も眉を下げて同意する。


 今頃、新は他の客引き担当の果歩たちと共に校内を回って、宣伝を頑張ってくれているのだろう。

 顔を合わせなくて済むこの状況を、少し安心はしていた鞠だが。
 同時に、こうしている間にもどんどん気持ちは離れていく事に、何故か恐怖心を覚える。



(勝手だよね……私から拒否したのに)



 自分から新とのキスを拒んだのに、新の気持ちが離れることを、多分望んではいない。
 今ならまだ引き返せると思った新への恋心が、昨日と同じ場所に留まっているのは。

 まだ、鞠の中で諦めきれない。納得できていないから。



「三石さん、調理室からストックの苺持ってきてもらって良い?」
「あ、うんわかった」
「一組用の冷蔵庫の中にあるはず」
「オッケー!」



 クレープの生地を焼きながら、カットされた果物の残り分をチェックして、追加をお願いしてきた梨田。
 鞠はそれを快く受けて、パタパタと教室を出ていった。


 体を動かして、別の何かをしているときは新のことを考えずに済む。

 廊下を歩いて調理室に向かっている鞠がそんなふうに思っていると、前方からやってきたのは。
 客引き担当のメンバーたちだった。



「⁉︎」



 しかしその中に、新の姿は確認できず。
 ついでに、新を客引き担当に推薦した、あの果歩の姿もなかった。