「学生時代だけで済むかと思ってたのに、実際にパイロットとして飛び始めてもやっぱりお前は何かこう、すんなりいかない時が多いだろ?それで俺、つい佐倉さんに話しちゃったんだ。こんなことがこの先も続いて、大丈夫なんでしょうか?って。人一倍、誰よりも真面目に努力してるのに、割に合わない、とか…」
「ええ?!佐倉さんに、会ったこともない私のことをそんなふうに?」
「だから、ごめんって!反省してる。酔った勢いでつい、あいつはアルコールチェックを気にして酒はおろか、奈良漬もかす汁も口にしない。休みの日もずっと勉強してる。それなのに、なんであいつばっかり色んな目に?俺は酒にも酔うし、休みの日にはブラブラ遊んでるのに、フライトはいつも晴れでベストコンディション。俺はあいつに申し訳ない、とかなんとか…。色々しゃべったあげくに、佐倉キャプテン!藤崎と一緒になった時は、なにとぞよろしくお願い致します!とか…」
「い、言っちゃったの?私の名前を?」
「うん、言っちゃった」

はあ…、と恵真は脱力して椅子にもたれる。

ごめん!と伊沢は両手を合わせて、恵真に頭を下げた。

「うーん、そっか。分かった。いいよ、伊沢くんは私のこと心配してくれてたんだもんね」
「え、ほんとに?怒ってない?」

伊沢は、パッと顔を上げる。

「怒ってないよ。むしろ、そこまで気にかけてくれてたんだなってちょっと嬉しい。けど…」
「…けど?」
「いや、うーん。もし佐倉さんと一緒になることがあったら、なんだか話しづらいなと思って」
「そんなことないよ!佐倉さん最後に、分かった、俺も気に留めておくって言ってくださってさ」
「ええー?!そんな、さらに会いづらいんだけど!」
「まあまあ、恵真も一度会えば分かるよ。ほんといい人なんだって」

な?と伊沢に笑いかけられ、恵真は渋々頷いた。

(きっと社交辞令よね。佐倉さんも伊沢くんとの会話、そんなに覚えてないだろうし)

そうに違いないと納得し、恵真は話題を変えて、その後は伊沢と他愛もない話を楽しんだ。