「あ、あの、佐倉さん?」

隣にドサッと身を投げて座った大和の顔を、恵真はそっと覗き込む。

「…嫌だ」
「え?何が?」
「その佐倉さんってのが嫌だ!名字で呼ぶなんて。ここは職場じゃないぞ?恵真」
「でも、私にとって佐倉さんは、憧れのキャプテンですし…」

恵真が困惑すると、ますます大和は不機嫌になる。

「キャプテンの前に一人の男だ。恵真、俺とお前はキャプテンとコーパイである前に、愛する恋人同士だ」

えっ…と恵真は顔を真っ赤にさせる。

「おい、ちょっと。一緒に暮らしておいて、今さら何をそんなに照れてるんだ?」
「だって、そんな。あ、あ、愛する、恋人だなんて、そんなこと言われたら…」

はあ?と大和は呆れた声を出す。

「恵真。お前、操縦スキルは上級だけど、恋愛スキルはお子ちゃまレベルだな」

そう言うと恵真は、ぷーっと頬を膨らませる。

「ひっどーい!佐倉さん、この間は私のこと、魅力的な女性だって言ってくれたのに!」
「ああ。こんなにお子ちゃまだとは知らなかったからな」

むうーっと恵真はさらに拗ねる。
大和は、ふふっと笑った。

「嘘だよ。でもこんなに可愛いとは知らなかった」

そう言って恵真の鼻の頭をちょんとつつく。
恵真は何も言えずに真っ赤になった。

「ではコーパイくん。キャプテンの命令だ。愛する恋人の名前を呼んでくれ」
「え、なーに?さっきはキャプテンとしか見れないのか?って言ってたのに!」
「いいから早く。キャプテン命令だぞ」

恵真は、うっと言葉を詰まらせてから、小さく呟く。

「佐倉…大和さん」
「おい、病院の待ち合い室じゃないんだから。フルネームはいらない」
「大和…キャプテン」
「なんでそこで仕事に戻る?!」

上目遣いに大和を見上げ、最後に恵真は恥ずかしそうに呟いた。

「…大和さん」

ふっと大和は頬を緩める。

「合格。じゃあごほうびに、ウイングローのシミュレーションしてやろうか?」

いたずらっぽくそう言うと、恵真は、やだ!とむくれる。

「じゃあ、キスは?」

ぱちぱちと瞬きしてから、恵真は頬を赤らめて頷く。

「よし、じゃあごほうびのキスだ」

大和はそっと恵真の頭を抱き寄せて、優しくキスをした。

「ウイングロー思い出した?」
「…ちょっとだけ」
「なにー?!じゃあもう一回!」
「ええー?!」
「俺のことしか考えられなくなるまで、何度でもするぞ!」
「ちょ、待って、ん!」

何度も落とされるキスに、いつしか恵真はうっとりと大和に身体を預けていった。