Good day !【書籍化】



「伊沢くん、あの。ここはちょっと……」

次の日。
Show Upの前に伊沢は恵真を、空港ターミナルの展望デッキに誘った。

飛行機を見ていた人達が、驚いたようにパイロットの制服姿の二人を振り返る。

「あの、場所変えない?」
「ん? 別にいいじゃない。風向き確認してますーって感じにしてれば。ほら、今日の恵真のシップ、あれじゃない?」
「あ、うん」
「天気もいいし、気持ちいいフライトになりそうだな」
「そうだね」

二人並んで、フェンス越しにしばらく飛行機を眺める。

「なあ、恵真」
「ん? なあに」
「俺達さ、元に戻らないか?」

え……と、恵真は隣の伊沢に顔を向ける。

「俺達、しばらく変な感じだっただろ? 前はもっと気さくに話してたのに、最近はオフィスですれ違っても妙によそよそしくて」
「……うん」

こずえから、伊沢に時間をあげてと言われて以来、恵真は伊沢に話しかけたりせず、挨拶を交わす程度だった。

そしてそれを、やはりどこか寂しく感じていた。

「前みたいにさ、なんでも話せる仲に戻りたいんだ。7年間ずっとそうだったみたいに」
「うん。私も、やっぱり伊沢くんとなんでも話したい。今までみたいに。でも伊沢くんは迷惑じゃない? 私に色々話されて」
「迷惑だなんて、そんなことないよ」
「本当に?」
「ああ」

頷いた伊沢は、恵真に正面から向き合った。

「恵真。これからもお前の親友でいさせてくれ。今までと同じように」

すると恵真は、嬉しそうに微笑んだ。

「うん! 私もずっと伊沢くんの親友でいたい。今までも、これからも」

そして恵真は右手を差し出す。

「いつも本当にありがとう。これからもよろしくね!」

伊沢も恵真の右手を握る。

「ああ。よろしくな」

にっこり笑ってから、恵真は腕時計に目を落とした。

「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん。行ってらっしゃい」
「ありがとう。伊沢くんも、フライトがんばってね」

タタッとデッキの階段を下りていく恵真のうしろ姿を見送る。

(どうか幸せにな、恵真)

心の中で呟いてから飛行機に目を移す。

「よーし、今日もいっちょ、大空に飛び立ちますか!」

気合いを入れてから、展望デッキをあとにした。