「お前さ、佐倉キャプテン知ってる?ほら、身長180cmのイケメン機長」
「佐倉さん?一緒になったことはないけど、顔と名前は把握してるよ」

乗務の度に、副操縦士は自分から機長に挨拶に行く為、恵真は必死で機長の顔写真を見ながら覚えていた。

佐倉機長は、社内でも異例の速さで機長に昇格したエリートパイロットと言われている。

いつか一緒に乗務出来れば、その技術を少しでも教わりたいと恵真は思っていた。

「伊沢くん、佐倉さんと一緒に飛んだの?」
「そうなんだよ。先週のパリ便」
「えー!パリ?じゃあ、現地のステイも一緒だったんだね」
「うん。それでさ、やっぱり佐倉さんの腕前、ものすごくて。俺、色々質問したくて思い切って、夕食ご一緒させてもらえませんか?って頼んでみたんだ。そしたら快くいいよって言ってくださって、二人で飲んだんだ」

ひゃー!と恵真は両手で頬を押さえる。

「それでそれで?どんな話したの?」
「えっとね、色々技術的なことも教えてくれたし、Rejected Takeoffの話とかも」
「V1前の離陸中止?うわー、聞きたいな」
「あと、デコンプも」
「ひえー、急減圧?!聞きたいような、聞きたくないような…」

思わず盛り上がる恵真に、伊沢はちょっと言いづらそうに顔をそらす。

「その、まあ、最初はそういう貴重な話を聞かせてもらってたんだけど。俺、途中からちょっと酔っちゃってさ。そこからは、余計なことをペラペラしゃべっちゃって…」

嫌な予感がして、恵真は真顔になる。

「まさか伊沢くん、佐倉さんにも私のネタを?」
「あ、いや、だからその…。まあ、少しだけ」

まったくもう、と恵真は腕を組む。