やたらと上の方の階でエレベーターを降り、大和が廊下を少し進んで足を止めた。

「お、ここだ」

カードキーを差し込んでドアを開ける。

「とにかく一旦入って」
「はい」

恵真は、ゆっくり部屋に足を踏み入れた。
と、すぐに驚いて声を上げる。

「え、ええ?!ここ、いったいどうなってるんですか?」

正面に広がるリビングと大きな窓。
ソファやテーブル、ベッドがあるのに空間はゆったりとしている。

自分のマンションの部屋の何倍あるのだろうか?
家具もインテリアもゴージャスな雰囲気だ。

「お前の部屋はこっち」

そう言って大和はリビングの奥のドアを開けた。

さらに部屋が続いている。
そこまで広くはないが、同じようにベッドにバスルーム、ソファもあった。

「あの、佐倉さん。これってもしかして…」

スイートルームというやつでは?と、恵真は恐る恐る聞いてみる。

「んー、まあね。なにせ地震の影響で他は満室でさ。唯一ここが空いてた」
「ひー!そんな。あの、おいくら万円でしょうか?私、今そんなに持ち合わせがなくて…」
「いいよ。俺一人でもこの部屋になったんだから。お前はおまけ」

そう言うと、あたふたしている恵真を尻目に、恵真のフライトバッグを奥の部屋に運ぶ。

「こっちの部屋で不自由ないか?バスルームもあるしな。あ、外の景色がイマイチだな」
「いいい、いえいえ、とんでもない。充分でございます」
「でもあっちの部屋の方が飛行機がよく見える。ソファでコーヒーでも飲むか」

そう言って踵を返す大和を、恵真が慌てて追いかける。

「あ、私が!私がやりますので、キャプテンはどうぞお座りになってお待ちください」
「なんだ?仕事モードだな」