◇
「こずえちゃん……」
手にしたスマートフォンに弱々しく呼びかけると、こずえの驚いた声がする。
『ど、どうしたの? 恵真。ひょっとして泣いてる?』
「泣いてない」
『いや、泣いてるでしょ?』
「勝手に涙が出てくるだけ」
『それを泣いてるって言うの! どうした? なにかあった?』
恵真は、ううっと肩で息を吸う。
あのあと、伊沢と別れてなんとか乗務をこなしたものの、マンションの部屋に帰るとやはり思い出してしまい、たまらず恵真はこずえに電話をかけた。
「あのね、私、伊沢くんを怒らせちゃった……」
『ええー? あの伊沢を?』
「うん。あ、ほんとに怒られた訳じゃないの。でも伊沢くんが我慢してくれただけ。きっと心の中では私のこと怒ってる。どうしよう、こずえちゃん。私、今までずっと伊沢くんを頼ってきて、なんでも相談してきたの。その伊沢くんが、あんなふうに……」
思い出すとまた涙が溢れて言葉にならない。
『恵真、落ち着いて。なにがあったか話して。ね?』
うん、と頷いて恵真は食堂での伊沢との会話を話す。
『……なるほどね。そういうことか』
「そういうことって、え、こずえちゃんは分かるの? どうして伊沢くんが怒ったか」
『うん、分かるよ』
え!と恵真は驚いて声を上げた。
「どうして分かるの? 教えて! 伊沢くんはなにを私に怒ったの?」
『んー、それは私の口からは言えない。でもね、恵真。伊沢は本気で恵真に怒った訳じゃないよ。ただ、そうだなー、歯がゆくなったのかな?』
恵真はこずえの言葉の意味を必死で考えてみたが、やはりよく分からない。
「こずえちゃん、私、どうしたらいい? 謝りたいけど、悪くないのに謝るなって言われて……。でも、伊沢くんに嫌われたくないの。またいつもみたいに明るく話したい。どうすればいいの?」
涙声で、すがるようにこずえに聞く。
『んー、難しいな。でもね、恵真。少し伊沢に時間をあげて? あいつ、今まで本当に恵真のことを大事に支えてきたと思うの。だから今度は恵真が伊沢のことを待ってあげて。ね?』
「……うん、分かった。心細いけど、伊沢くんを頼らずに一人でがんばってみる」
『よし! えらいぞ。その分私が話を聞くから。いつでも電話してきなよ?』
「ありがとう。うう……、ほんとにありがとう、こずえちゃん」
『ほら、もう泣かないの!』
こずえは半分笑って恵真を励ます。
『明日もフライト?』
「うん。広島往復」
『お、いいねー! 広島焼きでも食べて、元気出しな!』
「ありがとう。こずえちゃんも乗務がんばってね。話聞いてくれてありがとね」
『はいよー! おやすみ、恵真』
「おやすみなさい」
通話を終えた恵真は、気合いを入れる。
(こずえちゃんの言う通り、いつまでも伊沢くんを頼っちゃいけない。これからは自分一人でがんばらなきゃ!)
ギュッと唇を噛みしめて、恵真は頷いた。
「こずえちゃん……」
手にしたスマートフォンに弱々しく呼びかけると、こずえの驚いた声がする。
『ど、どうしたの? 恵真。ひょっとして泣いてる?』
「泣いてない」
『いや、泣いてるでしょ?』
「勝手に涙が出てくるだけ」
『それを泣いてるって言うの! どうした? なにかあった?』
恵真は、ううっと肩で息を吸う。
あのあと、伊沢と別れてなんとか乗務をこなしたものの、マンションの部屋に帰るとやはり思い出してしまい、たまらず恵真はこずえに電話をかけた。
「あのね、私、伊沢くんを怒らせちゃった……」
『ええー? あの伊沢を?』
「うん。あ、ほんとに怒られた訳じゃないの。でも伊沢くんが我慢してくれただけ。きっと心の中では私のこと怒ってる。どうしよう、こずえちゃん。私、今までずっと伊沢くんを頼ってきて、なんでも相談してきたの。その伊沢くんが、あんなふうに……」
思い出すとまた涙が溢れて言葉にならない。
『恵真、落ち着いて。なにがあったか話して。ね?』
うん、と頷いて恵真は食堂での伊沢との会話を話す。
『……なるほどね。そういうことか』
「そういうことって、え、こずえちゃんは分かるの? どうして伊沢くんが怒ったか」
『うん、分かるよ』
え!と恵真は驚いて声を上げた。
「どうして分かるの? 教えて! 伊沢くんはなにを私に怒ったの?」
『んー、それは私の口からは言えない。でもね、恵真。伊沢は本気で恵真に怒った訳じゃないよ。ただ、そうだなー、歯がゆくなったのかな?』
恵真はこずえの言葉の意味を必死で考えてみたが、やはりよく分からない。
「こずえちゃん、私、どうしたらいい? 謝りたいけど、悪くないのに謝るなって言われて……。でも、伊沢くんに嫌われたくないの。またいつもみたいに明るく話したい。どうすればいいの?」
涙声で、すがるようにこずえに聞く。
『んー、難しいな。でもね、恵真。少し伊沢に時間をあげて? あいつ、今まで本当に恵真のことを大事に支えてきたと思うの。だから今度は恵真が伊沢のことを待ってあげて。ね?』
「……うん、分かった。心細いけど、伊沢くんを頼らずに一人でがんばってみる」
『よし! えらいぞ。その分私が話を聞くから。いつでも電話してきなよ?』
「ありがとう。うう……、ほんとにありがとう、こずえちゃん」
『ほら、もう泣かないの!』
こずえは半分笑って恵真を励ます。
『明日もフライト?』
「うん。広島往復」
『お、いいねー! 広島焼きでも食べて、元気出しな!』
「ありがとう。こずえちゃんも乗務がんばってね。話聞いてくれてありがとね」
『はいよー! おやすみ、恵真』
「おやすみなさい」
通話を終えた恵真は、気合いを入れる。
(こずえちゃんの言う通り、いつまでも伊沢くんを頼っちゃいけない。これからは自分一人でがんばらなきゃ!)
ギュッと唇を噛みしめて、恵真は頷いた。



