「お、恵真!お疲れ」

その日の乗務を終え、オフィスでのデブリーフィングに向かっていると、同期の伊沢に声をかけられた。

フライトバッグを引きながら、機長と並んで歩いてくる。

おそらく恵真と同じく今日の乗務を終えたところだろう。

「伊沢くん、お疲れ様」

伊沢の隣にいる機長の原田にお辞儀をしてからそう答えると、伊沢は、くくっと笑いを噛み殺した。

「恵真。お前今日、千歳往復だったんだろ?」
「そうだけど。よく知ってるね」
「だって俺達、羽田でお前の後続機だったんだ。そしたら…」

思い出したように笑いながら、伊沢は隣の原田に話し出す。

「キャプテン、彼女ですよ。今日のアレ」

なに?今日のアレって…と怪訝な面持ちの恵真に、原田は、ああ!と笑顔になる。

「君だったのか。いやー、面白かったよ」

すると恵真の隣にいた野中も、嬉しそうに話に加わる。

「でしょ?俺も思わず吹き出しちゃったよ。彼女も管制官も真面目にやり取りしててさ。いやー、シュールだったなあ」

そして三人で顔を見合わせながら声を揃える。

「食事中の鳥!」

ああ、そのことか…と、ようやく恵真は合点がいった。

「恵真、このあと飯行かないか?ちょっと話したいことあってさ」

ひとしきり笑ったあと、伊沢が恵真に向き直って言う。

「いいけど。何?話って」
「まあ、あとでな。それとその鳥の話も詳しく聞かせてくれよ」
「おおー、それは私も聞きたいな」

原田のセリフに恵真が思わずギョッとすると、「キャプテン、それはまたいずれ」と伊沢がかわした。

「じゃあ恵真、あとでな」
「うん。分かった」

恵真はもう一度原田にお辞儀をしてから、野中と一緒に歩き出した。