Good day !【書籍化】

開演時間が近づき、三人は劇場内の席に着く。

演目は、恵真の大好きな「レ・ミゼラブル」

ミュージカルを生で鑑賞するのはずいぶん久しぶりで、恵真はあっという間にその世界観に引き込まれていった。

心を揺さぶられるストーリーと胸に迫ってくる歌声に、気づいた時には恵真の目から涙がとめどなく溢れていた。

ぽたぽたと落ちる涙を拭うこともせず、じっと舞台を見つめ続けていると、ふいに恵真の手に大和がハンカチを握らせた。

驚いて顔を向けると、大和が優しく笑っている。

恵真は小さく頭を下げてから、ハンカチで目元を押さえた。

やがてクライマックスになり、感動のあまり恵真は思わずううっと嗚咽をもらす。

カーテンコールでは立ち上がって大きな拍手を送った。

「いやー、良かったなーって、おい、大丈夫か? 藤崎ちゃん」

ロビーに出ると、野中は驚いたように恵真の顔を覗き込む。

「はい。すみません、もう顔面崩壊しちゃって……」

まだ込み上げてくる涙を拭いながら、鼻声でそう言うと、野中は明るく笑った。

「はは! そりゃ良かった。でもこんなに泣いてる女性の横には居づらいな。俺が泣かせてると思われる。おい、お前がエスコートしろ」

そう言って大和を無理やり恵真の隣に立たせる。

「すみません、佐倉さん。それにハンカチも、あの、もうぐしょぐしょで……」

大和は、ふっと恵真に笑う。

「いいよ、それあげるから」
「すみません、新しいハンカチを買ってお返ししますので」
「いいってば。ほら、行くぞ」

恵真は差し出された大和の腕に手を添えて歩き出した。