「Tokyo Tower. JW 57. There is a bird right in front of us」

すると、少し戸惑った声が返ってきた。

「JW 57. Tokyo Tower. Confirm…bird strike?」

先行機に当たったあとに落ちた鳥と思われたのだろうが、無理もない。

「JW 57. Negative, well…」

日本語でいいよ、と野中の声が聞こえ、頷いて恵真は続けた。

「日本語で失礼します。バードストライクではありません。えー、食事中の鳥です」

ぶっ!と野中が吹き出すのが視界に入った。

「食事中の鳥、了解しました。車両を向かわせますのでお待ちください。JW 57. Cancel takeoff clearance, hold position」
「Roger. Cancel takeoff clearance, hold position. JW 57」

交信を終えると、野中が肩を震わせて笑っている。

「ははっ!それいいな。使わせてもらうよ」

そう言って機内アナウンスを入れる。

「ご搭乗の皆様に機長の野中より申し上げます。当機は離陸に向け滑走路に進入致しましたが、前方に『食事中の鳥』がいるため、一旦停止しております。皆様への機内サービスもまだのところ、鳥が先に食事をしており大変恐縮ではございますが、今しばらくお待ちください。鳥が離陸し次第、当機も離陸致します」

後方のキャビンから、笑い声のような乗客のざわめきが聞こえてくる。

野中にニヤッと得意げな顔を向けられ、恵真はとりあえず笑顔を取り繕った。