「よっ、恵真。聞いたぜー、この間のマイクロバーストの話。佐倉さんと一発ランディングだってな」
社員食堂で話しかけてきた伊沢に、恵真は、シーッと人差し指を立てる。
「ん? どした?」
伊沢は小声になりながら、恵真の正面の席に着いた。
「伊沢くん、ここで佐倉さんの名前は出さないで」
「は? なんで?」
恵真は箸を置いてそっと辺りに視線をやってから、伊沢に顔を寄せる。
「なんかね、私、CAさん達にヒソヒソささやかれてる気がするの」
「え? なにを?」
伊沢も同じように辺りを見渡す。
「佐倉さんと一緒に飛んだ日から、なんか変なんだよね。CAさん達にすれ違いざまじっと顔を見られて、コソコソってなにか言われるの。それに今も、向こうのテーブルのCAさん達が、さっきから時々私を振り返ってなにか話してて。佐倉さんがどうとか……」
「はあー、なるほど。そういうことか」
「そういうことって?」
「つまりあれだな。二人がいい関係なんじゃないかって噂されてんだよ」
「なあに? いい関係って」
「男と女のいい関係って言ったら一つだろ。ズバリ、恵真と佐倉さんがつき合ってるんじゃないかって」
えっ!と大きな声を出してしまい、慌てて恵真は口を押さえる。
「まさか! そんなことある訳ないでしょ? エリートキャプテンとペーペーのコーパイが噂になるなんて……」
「ペーペーだろうがパーパーだろうが、男と女なんだから。噂にもなるだろうよ」
「そんな、どうしよう……。佐倉さんにご迷惑になっちゃう」
「は? そんなこと心配してんの?」
「それはそうでしょ? もし佐倉さんの耳に入ったら、気分を害されるだろうし。ああ、もう、なんて謝ればいいのか」
伊沢は呆れてため息をつく。
「恵真、そのすぐ謝る癖、いい加減どうにかしろ。なんでなにも悪くないのに謝るんだ?」
「だって、いきさつはどうあれ、私のことで佐倉さんにご迷惑がかかっちゃうのは事実でしょ? どうしよう、もし佐倉さんのおつき合いされてる方の耳に入ってしまったら……。私のせいで、お二人がケンカにでもなったら……。ねえ、伊沢くん。どうしたらいい?」
やれやれと腕を組みながら、伊沢は少し考えてみる。
「んー、そうだな。その手の噂は同じ噂で消せばいいんだよ」
ん?どういうこと?と恵真は首をかしげた。
「俺と恵真が噂になればいいんじゃない? あの二人、つき合ってるんじゃないのかって」
「あ! なるほどー。それいいね! さすが伊沢くん」
冗談半分で言ったつもりが真面目に受け取られて、伊沢は思わず恵真をまじまじと見つめる。
「え、本気で言ってる? 俺達がつき合ってるって噂になればいいって」
「うん。だって、そしたら佐倉さんにご迷惑はかからないでしょ。あ、伊沢くんは? 迷惑かけちゃうか……。嫌だよね、私と噂になるなんて」
「いや、別に。嫌じゃない……けど」
ほんと?と、恵真は目を輝かせる。
「じゃあ、お願いしてもいい? 私との噂」
「お、おお。ラジャー」
「ありがとう!」
満面の笑みでお礼を言う恵真に、伊沢は思わず顔を赤らめてうつむいた。
社員食堂で話しかけてきた伊沢に、恵真は、シーッと人差し指を立てる。
「ん? どした?」
伊沢は小声になりながら、恵真の正面の席に着いた。
「伊沢くん、ここで佐倉さんの名前は出さないで」
「は? なんで?」
恵真は箸を置いてそっと辺りに視線をやってから、伊沢に顔を寄せる。
「なんかね、私、CAさん達にヒソヒソささやかれてる気がするの」
「え? なにを?」
伊沢も同じように辺りを見渡す。
「佐倉さんと一緒に飛んだ日から、なんか変なんだよね。CAさん達にすれ違いざまじっと顔を見られて、コソコソってなにか言われるの。それに今も、向こうのテーブルのCAさん達が、さっきから時々私を振り返ってなにか話してて。佐倉さんがどうとか……」
「はあー、なるほど。そういうことか」
「そういうことって?」
「つまりあれだな。二人がいい関係なんじゃないかって噂されてんだよ」
「なあに? いい関係って」
「男と女のいい関係って言ったら一つだろ。ズバリ、恵真と佐倉さんがつき合ってるんじゃないかって」
えっ!と大きな声を出してしまい、慌てて恵真は口を押さえる。
「まさか! そんなことある訳ないでしょ? エリートキャプテンとペーペーのコーパイが噂になるなんて……」
「ペーペーだろうがパーパーだろうが、男と女なんだから。噂にもなるだろうよ」
「そんな、どうしよう……。佐倉さんにご迷惑になっちゃう」
「は? そんなこと心配してんの?」
「それはそうでしょ? もし佐倉さんの耳に入ったら、気分を害されるだろうし。ああ、もう、なんて謝ればいいのか」
伊沢は呆れてため息をつく。
「恵真、そのすぐ謝る癖、いい加減どうにかしろ。なんでなにも悪くないのに謝るんだ?」
「だって、いきさつはどうあれ、私のことで佐倉さんにご迷惑がかかっちゃうのは事実でしょ? どうしよう、もし佐倉さんのおつき合いされてる方の耳に入ってしまったら……。私のせいで、お二人がケンカにでもなったら……。ねえ、伊沢くん。どうしたらいい?」
やれやれと腕を組みながら、伊沢は少し考えてみる。
「んー、そうだな。その手の噂は同じ噂で消せばいいんだよ」
ん?どういうこと?と恵真は首をかしげた。
「俺と恵真が噂になればいいんじゃない? あの二人、つき合ってるんじゃないのかって」
「あ! なるほどー。それいいね! さすが伊沢くん」
冗談半分で言ったつもりが真面目に受け取られて、伊沢は思わず恵真をまじまじと見つめる。
「え、本気で言ってる? 俺達がつき合ってるって噂になればいいって」
「うん。だって、そしたら佐倉さんにご迷惑はかからないでしょ。あ、伊沢くんは? 迷惑かけちゃうか……。嫌だよね、私と噂になるなんて」
「いや、別に。嫌じゃない……けど」
ほんと?と、恵真は目を輝かせる。
「じゃあ、お願いしてもいい? 私との噂」
「お、おお。ラジャー」
「ありがとう!」
満面の笑みでお礼を言う恵真に、伊沢は思わず顔を赤らめてうつむいた。



