すっかり打ち解けた恵真は、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あの、佐倉さん。今日のランディングのこと、聞いてもいいですか?」
「ああ。なんだ?」
「今日のウイングロー、本当にすごかったです。ギリギリの所で粘ってタイミングを狙って……。私が今だ! って思った時には、もう風上のメインギアが接地してました。片輪で走行しながらゆっくり風下のギアも下ろして、機首もグッて正面に戻してノーズギアもゆっくり接地。ウイングローなんて、一つ間違えれば風上の翼がめくれ上がって大変なことになる可能性もあるのに、あんなにもスムーズに確実にこなすなんて。どうやったら出来るんですか? コツとか、あるんでしょうか?」
「んー、確かに難しいよな。クロスウインドランディングは、俺もコーパイの時はずっと苦手だった。でもさ、ある時それを上手くこなす機長と一緒になって、思わず聞いてみたんだ。どうやってやるんですか? って。今のお前みたいに」
うんうんと恵真は頷く。
「そしたら? 教えてくれたんですか?」
「ああ。その機長、社内切ってのプレイボーイでCAと数々の浮き名を流してる人だったんだけどさ。ウイングローなんて簡単だよ、相手を……」
そこまで言って大和は急に口をつぐむ。
「ん? どうしたんですか?」
恵真が首をかしげるが、大和はじっと黙ったままだ。
「あの、佐倉さん?」
「いや、今は話せない」
「えっ!? どうしてですか?」
「それは、その……」
大和は、真剣な表情で自分を見つめている恵真から視線をそらす。
(言えない……。あのキャプテンのセリフを再現したら、きっとこの子は幻滅する。神聖なパイロットの仕事を汚されたって思われるかも……)
心の中でそう思い、言い繕った。
「あの、だからつまり。今の俺とお前の関係性では話せないんだ。今は、まだ……」
煮え切らない口調で言うと、恵真はうつむき加減で考え込んでいる。
「それはつまり、私が未熟で佐倉さんとは対等にお話が出来ないってことですよね。佐倉さんのお話には、まだついていけないと」
「あ、いや、そうではなくて。あ、そうなのかも?」
なにを言っているんだ?と自分で突っ込みたくなるが、恵真は納得したように頷いた。
「分かりました。私、しっかり勉強しておきます。佐倉さんのお話をちゃんと理解出来るようになったら、その時は改めて質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。よろしいです、とも」
「ありがとうございます。きちんと勉強しておきます」
「いや、その。はい」
大和は、とにかくここはおとなしく話をまとめることにした。
「ところで佐倉さん。私にダメ出しされるんじゃなかったんですか?」
「え? なんで?」
「だって、話があるからって車に……」
「あ! そうだったな。いや、別にダメ出しなんてないよ。そう言ったら車に乗るかなと思って」
「そうだったんですね! すみません、私の為に。お話がないならもう降りますね」
「わー、バカ! こんな所で降りてどうする!」
ドアを開けようとする恵真を、大和は必死で止める。
「いいか、じっとしてろよ。もう車出すからな!」
「あ、はい」
「まったく、どこまで真面目なんだか……」
恵真が隙を見て降りないように注意しながら、大和は無事に恵真をマンションに送り届けた。
「あの、佐倉さん。今日のランディングのこと、聞いてもいいですか?」
「ああ。なんだ?」
「今日のウイングロー、本当にすごかったです。ギリギリの所で粘ってタイミングを狙って……。私が今だ! って思った時には、もう風上のメインギアが接地してました。片輪で走行しながらゆっくり風下のギアも下ろして、機首もグッて正面に戻してノーズギアもゆっくり接地。ウイングローなんて、一つ間違えれば風上の翼がめくれ上がって大変なことになる可能性もあるのに、あんなにもスムーズに確実にこなすなんて。どうやったら出来るんですか? コツとか、あるんでしょうか?」
「んー、確かに難しいよな。クロスウインドランディングは、俺もコーパイの時はずっと苦手だった。でもさ、ある時それを上手くこなす機長と一緒になって、思わず聞いてみたんだ。どうやってやるんですか? って。今のお前みたいに」
うんうんと恵真は頷く。
「そしたら? 教えてくれたんですか?」
「ああ。その機長、社内切ってのプレイボーイでCAと数々の浮き名を流してる人だったんだけどさ。ウイングローなんて簡単だよ、相手を……」
そこまで言って大和は急に口をつぐむ。
「ん? どうしたんですか?」
恵真が首をかしげるが、大和はじっと黙ったままだ。
「あの、佐倉さん?」
「いや、今は話せない」
「えっ!? どうしてですか?」
「それは、その……」
大和は、真剣な表情で自分を見つめている恵真から視線をそらす。
(言えない……。あのキャプテンのセリフを再現したら、きっとこの子は幻滅する。神聖なパイロットの仕事を汚されたって思われるかも……)
心の中でそう思い、言い繕った。
「あの、だからつまり。今の俺とお前の関係性では話せないんだ。今は、まだ……」
煮え切らない口調で言うと、恵真はうつむき加減で考え込んでいる。
「それはつまり、私が未熟で佐倉さんとは対等にお話が出来ないってことですよね。佐倉さんのお話には、まだついていけないと」
「あ、いや、そうではなくて。あ、そうなのかも?」
なにを言っているんだ?と自分で突っ込みたくなるが、恵真は納得したように頷いた。
「分かりました。私、しっかり勉強しておきます。佐倉さんのお話をちゃんと理解出来るようになったら、その時は改めて質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。よろしいです、とも」
「ありがとうございます。きちんと勉強しておきます」
「いや、その。はい」
大和は、とにかくここはおとなしく話をまとめることにした。
「ところで佐倉さん。私にダメ出しされるんじゃなかったんですか?」
「え? なんで?」
「だって、話があるからって車に……」
「あ! そうだったな。いや、別にダメ出しなんてないよ。そう言ったら車に乗るかなと思って」
「そうだったんですね! すみません、私の為に。お話がないならもう降りますね」
「わー、バカ! こんな所で降りてどうする!」
ドアを開けようとする恵真を、大和は必死で止める。
「いいか、じっとしてろよ。もう車出すからな!」
「あ、はい」
「まったく、どこまで真面目なんだか……」
恵真が隙を見て降りないように注意しながら、大和は無事に恵真をマンションに送り届けた。



