◇
「あ、佐倉さん! お疲れ様です。聞きましたよー、マイクロバーストの中、一発ランディングですって?」
更衣室に入ると、顔見知りの副操縦士が大和に笑顔で話しかけてきた。
「別に大したことじゃない。タイミングが合ったから下りただけだ」
ネクタイを緩めながら、淡々と答える。
「いやー、それがなかなか出来ないからみんな困ってるんですよ。でもかっこいいなー。俺もサラッと言ってみたいです。『別に大したことじゃない』って」
「なんだ? それ、俺の真似か?」
最後のセリフが妙に低い声だったのを突っ込むと、あはは!と軽く流された。
「それより佐倉さん。今日は車ですか?」
「ああ、そうだけど」
「良かったですね。強風の影響で、電車はノロノロ運転らしいですよ。止まってるところもあるそうです。タクシーも全然捕まらないみたいだし、俺も今日は車にしておいて正解だったな」
ではお先に失礼します!と去っていくうしろ姿に、お疲れ様と言ってから、大和はふと恵真を思い出した。
(あいつ、無事に帰れるのかな?)
着替えを済ませて更衣室を出ると、廊下の先で立ち止まり、スマートフォンで電車の運行状況を見る。
やはりどの路線も強風の影響が出ていた。
(無理もないか。台風並みの風だしな)
ふと足音がして顔を上げると、廊下の端からこちらに向かってくる恵真の姿が見えた。
細身のジーンズにオフホワイトのジャケット姿で、パイロットの制服を着ている時より女性らしい。
大和に気づくと、驚いたように目を見開いた。
「お疲れ様です。まだお帰りじゃなかったんですか?」
「ああ。お前、帰りは電車か?」
「え? はい、そうですけど……」
「風の影響で、どこも徐行運転か一時見合せだ。大変だから車で送る」
そう言うと、ええ!?と声を上げる恵真に背中を向けて歩き出す。
「あ、あの! 佐倉さん!」
「なんだ?」
「まさかそんな、キャプテンに送っていただくなんて、コーパイの分際であり得ません」
「なんだそれ。そんな決まりあったか?」
足早に駐車場に向かいながら答えると、恵真が必死に追いついて来た。
「決まりはありませんが、私としてはあり得ません。お気持ちだけいただきます。それでは失礼いたします」
頭を下げるとくるりと背を向け、来た道を歩き出す。
「わー、ちょっと待て!」
大和は思わず呼び止めた。
「そ、その、話があるんだ。そう! 今日のフライトのことで」
すると恵真はビタリと立ち止まり、真剣な表情で振り返った。
「あ、そうですよね。デブリーフィングもきちんと出来なかったし、オフィスでは私へのダメ出しも言いづらいですよね。分かりました」
そう言って素直に戻って来た。
(いや、そんな話はない、んだけど……)
とにかく車に乗せようと、大和は黙っておくことにした。
「あ、佐倉さん! お疲れ様です。聞きましたよー、マイクロバーストの中、一発ランディングですって?」
更衣室に入ると、顔見知りの副操縦士が大和に笑顔で話しかけてきた。
「別に大したことじゃない。タイミングが合ったから下りただけだ」
ネクタイを緩めながら、淡々と答える。
「いやー、それがなかなか出来ないからみんな困ってるんですよ。でもかっこいいなー。俺もサラッと言ってみたいです。『別に大したことじゃない』って」
「なんだ? それ、俺の真似か?」
最後のセリフが妙に低い声だったのを突っ込むと、あはは!と軽く流された。
「それより佐倉さん。今日は車ですか?」
「ああ、そうだけど」
「良かったですね。強風の影響で、電車はノロノロ運転らしいですよ。止まってるところもあるそうです。タクシーも全然捕まらないみたいだし、俺も今日は車にしておいて正解だったな」
ではお先に失礼します!と去っていくうしろ姿に、お疲れ様と言ってから、大和はふと恵真を思い出した。
(あいつ、無事に帰れるのかな?)
着替えを済ませて更衣室を出ると、廊下の先で立ち止まり、スマートフォンで電車の運行状況を見る。
やはりどの路線も強風の影響が出ていた。
(無理もないか。台風並みの風だしな)
ふと足音がして顔を上げると、廊下の端からこちらに向かってくる恵真の姿が見えた。
細身のジーンズにオフホワイトのジャケット姿で、パイロットの制服を着ている時より女性らしい。
大和に気づくと、驚いたように目を見開いた。
「お疲れ様です。まだお帰りじゃなかったんですか?」
「ああ。お前、帰りは電車か?」
「え? はい、そうですけど……」
「風の影響で、どこも徐行運転か一時見合せだ。大変だから車で送る」
そう言うと、ええ!?と声を上げる恵真に背中を向けて歩き出す。
「あ、あの! 佐倉さん!」
「なんだ?」
「まさかそんな、キャプテンに送っていただくなんて、コーパイの分際であり得ません」
「なんだそれ。そんな決まりあったか?」
足早に駐車場に向かいながら答えると、恵真が必死に追いついて来た。
「決まりはありませんが、私としてはあり得ません。お気持ちだけいただきます。それでは失礼いたします」
頭を下げるとくるりと背を向け、来た道を歩き出す。
「わー、ちょっと待て!」
大和は思わず呼び止めた。
「そ、その、話があるんだ。そう! 今日のフライトのことで」
すると恵真はビタリと立ち止まり、真剣な表情で振り返った。
「あ、そうですよね。デブリーフィングもきちんと出来なかったし、オフィスでは私へのダメ出しも言いづらいですよね。分かりました」
そう言って素直に戻って来た。
(いや、そんな話はない、んだけど……)
とにかく車に乗せようと、大和は黙っておくことにした。



