「J Wing(ジェイウイング)57. Wind 260 at 10. Runway16 Left. Cleard for takeoff」

タワーの管制官から離陸許可が伝えられ、コックピットの右側の副操縦士席に座った恵真(えま)は、すぐさまリードバックする。

「Runway16 Left. Cleard for takeoff. JW 57」

羽田空港発、新千歳空港行きの日本ウイング航空JWA57便は、指定された滑走路へ向けて地上走行していた。

「いやー、今日はツイてるな。天候もいいしディレイもなし。おまけにランウェイも空いてる。手前で待機命令がなければ予定通りローリングテイクオフでいこう」

左隣りに座る機長の野中の言葉に、ローリングテイクオフ了解ですと答えつつ、恵真は心の中で首をひねる。

(そんなに上手くいく?この私が乗務してるのに?)

半信半疑で離陸の準備を進める中、やがて滑走路への最後のコーナーに差し掛かった。

タワーからの待機命令はない。

(え、すごい!本当にツイてる!ようやく私もミス・ハプニングの汚名返上だわ…って、ん?)

コーナーを曲がり終え、滑走路に正対すると、前方のセンターライン上に何かが動いているのが見えた。

「何だ?あれ」

野中も身を乗り出して目を凝らし、機体を停止させた。

「鳥…ですかね?」
「鳥…だな」

二人で前方を見つめつつ呟く。

(何か食べてる。鳩にしては大きいな。トンビ?…って、そんなこと考えてる場合じゃない!)

我に返り、恵真は野中に「タワーに連絡します」と告げた。