しばらくしてから、ふと大和は恵真に声をかけた。

「好きなウェイポイントあるか?」
「え?それは、ルートが目指しやすいとか、そういうことですか?」
「違うって。単にお気に入りってこと。名前が面白いとか、景色がきれいとかさ」

ウェイポイントとは、航空路に設定された地点のことで、簡単に言うと空につけられた地名のようなものだ。

アルファベット5文字という決まりはあるが、つけ方は自由で、各地の名産や有名人、方言などが使われた所もある。

関西付近では「HONMA」「KAINA」や「MAIDO」「OKINI」など、続けて読むと「ほんまかいな」「まいどおおきに」となるような面白いポイントもある。

「えっと、私は、高知付近ですかね」
「ああ、空飛ぶパンのヒーローね」
「はい。あとは愛知の、アニメーション映画のプリンセスの名前とか」
「ふーん、やっぱり女の子だね」
「え、そ、そうですか?」

照れたようにうつむく恵真は、ほんのり顔を赤らめている。

「佐倉キャプテンは?どこがお気に入りなんですか?」

珍しく恵真の方から話しかけてくる。

「俺?そうだな、広島のあたりかな」
「あ、車ですか?」
「うん。なんか面白くてさ。飛行機に乗ってるのに車?って」
「ふふ、確かにそうですね」
「今向かってる福岡も好きだよ」
「ビール、ですね?」
「そう。どれにしようかなってたまに悩む」
「あはは!」

恵真が明るく笑い声を上げる。

(へえ、こんなに楽しそうに笑ったりもするんだな)

この話題は正解だったかも、と思いながら、大和はさらに話を続けた。

「松山空港周辺のウェイポイント分かるか?」
「えっと『SAKAR』『NOUEH』『NOKMO』ですか?」
「そう。それ、どうやって覚えた?」
「え?普通に暗記しましたけど…」
「全部繋げると『坂の上の雲』になるよ」

え!と恵真が目を丸くする。

「ほんとだ!わあ、すごい!」

そう言って、大和に笑顔を向ける。

「もっと早く知りたかったです」
「もっと早く聞いてくれれば教えたのに」

ふふっと恵真は、すっかり気を許したように笑う。

(普通の女の子だな。良かった、素顔が分かって)

大和も恵真に笑いかけた。