「今日は復路の羽田着陸で天候が荒れそうだな」

二人でモニターを見ながらブリーフィングをする。

搭乗前に機長とフライトプランを立てる為、恵真は決められたShow Upの時間よりも1時間以上早く来て準備をしていた。

気象・ノートム(航空情報)・整備状況・重量・燃料・積載物について確認することが航空法で定められており、頭文字を取って『気ノ整重燃積』と恵真は覚えていた。

頭の中にまとめておいた情報を恵真が伝えると、大和は頷き、問題は羽田の天候だな、と二人で念入りに確認する。

今日は北日本を東に進んでいる低気圧の影響で、ちょうど羽田に帰って来る頃に猛烈な風に見舞われる予報だった。

羽田の離発着は大和がPF(Pilot Flying)を、大きな問題がなければ福岡では恵真がPFを務めることを確認してブリーフィングを終える。

並んでシップに向かいながら、大和は何を話そうかと思案していた。

社内で女性パイロットを見かけることはあるが、一緒に乗務するのは初めてだった。

(それに伊沢に話を聞いてから、勝手に頭の中で男性をイメージしてたからなあ。まさか女性だったとは。確かに真面目な努力家って感じだな。ブリーフィングでも情報の伝え方がスムーズで的確だったし、やりやすかった)

そんなことを考えていると、隣で小さく、すみませんと声がした。

「ん?どうした」

歩きながら恵真を見ると、うつむいたまま話し出す。

「あの、やりづらいですよね?私と組むの。すみません」
「なぜ謝る?」
「それはその、キャプテンは皆さん女性のコーパイと組むのは初めてだっておっしゃる方が多くて。何を話せばいいか分からないと…」

毎回そんなことを心配しながら乗務しているのかと、大和は小さくため息をつく。

「君が気にする必要はない。女性でも男性でも、そこに違いはないんだからな。互いに協力して飛行機を安全に飛ばす、ただそれに集中すればいい」
「はい。分かりました」

恵真は真剣な表情で頷いた。