朱里は電話でオーケストラ事務局の担当者とやり取りし、まずは日程を調整してホールを仮押さえした。

 その後、改めて瑛と一緒に挨拶に伺うことになり、菊川の運転する車に久しぶりに二人で乗る。

 「菊川さん、どこかで手土産を購入したいのですけど」
 「それでしたら、既に私が手配しておきました。団員の皆様と事務局の方含めて、多めにご用意しております」
 「うわー、さすが菊川さん!ありがとうございます」
 「いえ、とんでもない。少しでも朱里さんのお役に立てれば嬉しいです」

 朱里は隣の瑛に話しかける。

 「菊川さんのような敏腕秘書さんがいてくださって、心強い限りですね、部長」
 「ん?ああ、そうだな」

 すると菊川が驚いたように目を見開いているのが、バックミラーに映った。

 「菊川さん?どうかしましたか?」

 後部座席から、朱里が声をかける。

 「あ、いえ、あの。あまりにも驚いてしまって。失礼しました」

 (あ、そうか。今まで菊川さんの前で部長と会話したことなかったっけ。ふふ、菊川さん。これが新たな私達の関係なのですよ)

 朱里は妙にしたり顔で頷いた。