「皆様、本日は私達、青南大学管弦楽団カルテットチームの演奏会へようこそ!秋の夕陽に照らさせるこの素敵なロビーで、どうぞご一緒に音楽をお楽しみ頂けたらと思います」

マンションの吹き抜けに、マイクを持つ朱里の声が響く。

今日も用意された席は満席。
立ち見や、通りすがりに足を止めてくれる人もいる。

中央の席には、雅や優、瑛の両親。
そしてその隣には瑛と聖美、聖美の母も座っていた。

久しぶりに見る瑛の姿は、なぜだか朱里を切なくさせる。

朱里は気持ちを切り替えて楽しく演奏会をスタートさせた。

まずは馴染みのある曲を何曲か披露する。
クイズや音マネで場が和んだところで、光一がおもむろに車掌さんの帽子をかぶった。

「えー皆様、秋は行楽シーズンですね。これより東京から神戸までの東海道線を、音楽でたどる旅にご案内致します。それでは出発、進行ー!!」

ピー!と光一が笛を吹き、音楽が始まる。

朱里達三人が新幹線の到着メロディを演奏する中、光一がナレーションを入れる。

「えー、皆様。間もなく静岡、静岡でございます」

光一の口調に客席から笑いが起こる。

朱里達は、『茶摘』や『ふじの山』を織り交ぜて演奏した。

口ずさんで聴いてくれている人もいる。

そのあとも、新幹線のメロディと光一のナレーション、そしてご当地の曲のメドレーで、会場内は大いに湧いた。

やがてゆっくりと夕陽が沈み、ロビーに少し控えめな照明が点灯した頃、コンサートは終盤に差し掛かった。