「聖美さーん。これからガーデンを一緒に回ってもらえないかしら?」

 朱里が菊川の腕に両手を絡め、ピタリと寄り添いながら聖美に声をかけると、聖美は少し驚いたような顔で答える。

 「え?あ、はい。もちろん」
 「良かったあー。じゃあ、行きましょ!菊川さん♡」
 「…は?」

 ポカンとする菊川の腕を強引に引っ張り、朱里は歩き出す。

 「ほら、ちゃんと合わせてくださいよ」

 朱里がヒソヒソと菊川に囁く。

 「合わせるとは、な、何を?」
 「ですから、ちゃんとラブラブしてください」
 「…ラ、ラブ?!」

 思わず菊川はギョッとして立ち止まる。
 朱里はすかさずグイッとその腕を引っ張った。

 「私達がラブラブしてると、つられて聖美さんと瑛もラブラブになるでしょ?」
 「は?そ、そうでしょうか」
 「そうですよ!ほら、もっとくっついて」

 そして朱里は、妙に甘ったるい声を出す。

 「うわーあ、菊川さん♡あのお花見て!とーっても綺麗!」
 「ほ、ほんとうだー。綺麗だなー」

 朱里はキッと菊川の顔を見上げて小声で咎める。

 「なんですか?その棒読み!菊川さん、お芝居下手すぎます。ほら、私を恋人だと思って」

 は、はい、と菊川は勢いに呑まれて頷いた。

 「ねえ、あのお花と私、どっちが綺麗ー?」
 「そ、それは、もちろん君だよ。あはは!」

 朱里はまた真顔になる。

 「菊川さん、寒すぎます」
 「そう言われても…。これが限界です」

 腕を組み、顔を寄せ合ってヒソヒソ話す朱里達を後ろで見ていた聖美が、隣の瑛に囁く。

 「瑛さん。菊川さんと朱里さん、なんだかこうして見るとお似合いですね」
 「聖美さんもそう思いますか?実は私、ちょっと思惑があって…」

 そう言って瑛は、いたずらっ子のような笑顔を聖美に向ける。

 初めて見る瑛のその表情に聖美がキュンとしていると、瑛は声を潜めて聖美に囁いた。

 「菊川と朱里をくっつけようと思ってるんです」
 「え?それはお二人が、その…恋人同士になるように、ということですか?」
 「ええ、そうです」

 そう言って瑛は視線を前に戻す。

 「菊川も朱里も、私の大切な人です。菊川になら、朱里を任せられる。必ず朱里を幸せにしてくれるでしょう。そして朱里も、菊川となら穏やかで温かい日々を過ごすことが出来る。私は二人のそんな幸せを心から願っています」

 二人の後ろ姿を見つめる瑛の横顔には、笑みが浮かんでいる。

 だが同時に、愛しむような眼差しや切なさ、そしてやるせなさも感じられ、そんな瑛の表情に聖美は胸が締めつけられた。