美味しそうにケーキを頬張る朱里に笑いかけてから、聖美の母はしみじみと言う。

「聖美がお友達を連れてくるなんて初めてで。もう本当に嬉しいわ。朱里さん、聖美と仲良くしてくださって本当にありがとう」
「いえいえ、こちらこそ!私なんて、およそこちらのお家柄とは不釣り合いな庶民ですのに、聖美さんは気さくに話してくださって。そう!コンサートにも誘ってくださったんです」
「ええ、聞きましたわ。聖美ったら、興奮して話すんですもの。朱里さんと一緒に感想を話して、とても楽しかったって」

すると聖美が、恥ずかしそうに口を挟む。

「もうお母様。私が朱里さんとお話したくてお招きしたのに。お母様ばかりがお話しして…」
「あら、いいじゃない。私も朱里さんにお聞きしたいことがたくさんあるんだもの。朱里さん、ヴァイオリンがお上手なんですってね」

朱里は慌てて首を振る。

「いえ、そんな。趣味で少し弾くくらいです」
「聖美から聞きましたわ。なんでも、カルテットの演奏会をされたとか?聖美が興奮して帰ってきましたのよ。客席も一体となって皆さん笑顔で楽しまれて、それはそれは素敵な演奏会だったと。次回は私も呼んでくださらない?」

ええー?!と朱里は仰け反る。

「そ、そんな。私達アマチュアですし、きっと奥様をガッカリさせてしまいます」
「まあ、そんなことないわ。ね?どうか私もお招きくださいね」

前のめりに懇願され、朱里は勢いに負けて頷いた。