「うー、目が回る…」
「ほら、しっかりしろ!朱里」

朱里の肩を支えながら、瑛がなんとか朱里を家まで連れて行く。

玄関を入ってすぐに寝転びそうになる朱里を起こし、2階への階段を上がる。

ようやく部屋に着くと、朱里はベッドに倒れ込んだ。

「うわ、ちょっと朱里!」

朱里は瑛の首に回した手を緩めず、瑛はバランスを崩して朱里と一緒にドサッとベッドに倒れた。

「ちょ、ちょっと、離せってば!」

必死に朱里の手から逃れようと身をよじるが、朱里はさらに力を込めてグイッと瑛の頭を押さえつけた。

「…あ、朱里?」

じっと顔を覗き込まれ、瑛はドギマギする。
朱里は、目をうるうるさせながら瑛を見つめた。

「朱里…」

瑛の頭の中が真っ白になり、身体から力が抜けていく。

その時だった。

「優くん…。可愛い」

朱里が呟き、ギュッと自分の胸に瑛の頭を抱き寄せた。

は?と一瞬、瑛は我に返ったが、気づけば朱里の胸に顔をうずめており、途端に顔が真っ赤になる。

「あ、あ、朱里!俺は優じゃないぞ!離せってば」

すると、スーッと寝息が聞こえてきた。

瑛はそっと様子をうかがい、朱里が良く眠っているのを確かめると、朱里の腕を外して身体を起こした。

(まったくもう、気持ち良さそうに眠りやがって)

ため息をついて、朱里の顔を見つめる。

子どものようにスヤスヤと眠るあどけないその寝顔は、瑛の心に一気に火をつける。

「くそっ!」

瑛は顔を歪め、唇を噛みしめると、必死に自分の気持ちを抑え込んで部屋をあとにした。

玄関の鍵を外からかけるとドアポケットに鍵を入れ、急いで屋敷の自室に戻る。

バタンと後ろ手にドアを閉めて息を整えていると、雅の言葉が蘇ってきた。

『あなたこの先の人生、朱里ちゃんを見かける度に辛くなるんじゃない?』

「…仕方ないだろ、こうするしかないんだから」

瑛は、グッと自分の胸元を掴んで気持ちを落ち着かせようとした。