しばらくして、朱里達カルテットの二度目の本番がやってきた。

 今回は直々に、瑛の父でもある桐生社長からの依頼で、また別のマンションでの演奏だった。

 前回とは曲目や演出も少し変え、朱里達四人はこの日の為に練習を重ねてきた。

 当たり前だが、今日朱里が演奏することを桐生一家は把握しており、最初から客席に座って聴いていた。

 優もにこにこと楽しそうにしているのが目に入り、演奏しながら朱里も嬉しくなる。

 そして、瑛の隣には聖美も座っていた。

 客席の反応も良く大いに盛り上がり、たくさんの拍手を浴びて四人は深々とお辞儀をした。

 「朱里さん!」

 終演後、すぐに聖美が朱里に駆け寄ってきた。

 「とっても素敵な演奏でした!」

 そう言ってピンクのバラの大きな花束を渡してくれる。

 「ええ?!私に?」

 戸惑う朱里に、聖美は笑顔で頷く。

 「もちろんです」
 「こんなに綺麗なお花を…。ありがとうございます!」
 「それと、こちらは皆様で召し上がってください」

 今度は大きな高級洋菓子の紙袋を、奏達に差し出す。

 「ええ?!俺達に?」
 「はい。とても素晴らしい演奏をありがとうございました」

 こ、こちらこそ、と三人は面食らう。

 朱里は改めて皆に紹介した。

 「こちらは、都築製薬のご令嬢の都築 聖美さんです」
 「初めまして。都築 聖美と申します」

 ええー?!と奏達は仰け反る。

 「そしてお隣は、聖美さんのフィアンセの桐生 瑛さんです」
 「初めまして。桐生 瑛です」

 えええー?!と、三人はさらに仰け反った。

 そうこうしているうちに、瑛の両親達も近づいてきた。

 「皆さん、今日も素晴らしい演奏をありがとうございました」
 「しゃ、社長!こちらこそ、お招きいただきありがとうございました」

 四人で頭を下げる。

 「いやー、今回も本当に楽しく聴かせて頂きました。客席の皆さんもとても感激していらっしゃいましたよ。是非、今後ともよろしくお願いしますね」
 「はい!精進して参ります。またどうぞよろしくお願いいたします」

 奏が腰を折って丁寧に頭を下げると、瑛の父は嬉しそうに頷いた。

 「あーちゃ!」

 ふいに優の可愛い声が聞こえてきて、朱里はメロメロになる。

 「優くーん!来てくれてありがとーう!」

 朱里は雅に抱かれた優に頬ずりする。

 最近少し言葉を覚え始めた優は、朱里のこともあーちゃと呼んでくれ、その度に朱里は骨抜きにされていた。

 「朱里ちゃん、今日も輝いてたわよー。ヴァイオリン弾いてる時の朱里ちゃん、すっごくかっこいい!」
 「えー、男前でした?」
 「うん、そこらの男よりもよっぽど男前!」

 お姉さん、それって…と朱里が眉間にシワを寄せると、皆はドッと笑う。

 素敵な仲間達と演奏出来たこと、そして大切な人達に聴いてもらえたことに幸せを感じながら、朱里もとびきりの笑顔をみせた。