「まあ、そうなのねえ。聖美さんは日本舞踊も茶道もお上手なのね」
 「いえ、あの。たしなむ程度です」
 「でも素晴らしいわ。そうなのねえ…」

 そう言って紅茶を口に運ぶ母に、瑛は心配になってくる。

 (さっきから、ちょっと話しては会話が途切れてお茶を飲む、の繰り返し。そのうち腹がチャポチャポになるぞ)

 「えっと、他には何かなさるの?趣味などは?」
 「はい。3歳の頃からピアノを続けています」
 「まあ、そう。ピアノをねえ。素晴らしいわ」
 「いえ、大した腕前ではありません」
 「でも長く続けていらっしゃるのでしょう?素晴らしいわよ」

 そしてまた紅茶を口にする。
 瑛はいよいよ母の腹具合が心配になり、助け舟を出した。

 「聖美さんは、音楽がお好きなのですか?」
 「あ、そうですね。好きです。本当は5歳からヴァイオリンも始めたのですが、続かなくて…」

 まあ、ヴァイオリン?!と、急に母が前のめりになる。

 「え?あ、はい。でもヴァイオリンはとても難しくて、すぐにやめてしまいました」
 「まあ、そんなに難しいの?」
 「はい。ピアノは鍵盤を押せばその音が出ますけれど、ヴァイオリンは印がある訳でもないので、なかなか思うように音が出せなくて…。何か一曲でもサラッと弾けるようになりたかったのですが」
 「そうなのねえ…」

 そこでまた会話は途切れ、母は紅茶を口にする。

 そろそろ限界だろうと、瑛は聖美に提案した。

 「聖美さん、よろしければ庭を散歩しませんか?」
 「あ、ええ!是非」

 どうやら聖美も居心地が悪かったのだろう、瑛の提案に嬉しそうに頷いた。