放課後、いそいそウキウキと朱里は部室に向かう。

 「おはようございまーす」

 夕方でもそう挨拶する決まりは、なぜなのだろう?
 とにかく朱里は元気良くドアを開けた。

 「朱里ー!おはよう」

 ロングヘアのいかにも清楚な雰囲気の美園(みその)が笑いかけてくれる。

 「美園ちゃん、おはよう!久しぶりだねー」
 「うん。キャンパスでもなかなか会わないよね、私達」
 「美園ちゃん、理系だもんね。私、あっちの校舎にすら行ったことないよ」
 「あはは!いつでも来てよ」

 同い年の美園と話していると、ドアが開いてビオラの光一とチェロの(かなで)が入って来た。

 二人は朱里達の一つ上、大学四年生だったが、早々に就職先も決まり残り少ない大学生活を楽しもうと、今回の依頼演奏にも参加を決めたのだった。

 「お、早いな。朱里に美園」
 「はい、おはようございます」

 四人はそれぞれ楽器を準備してから、ミーティングを始める。

 「えっと、今回は大規模マンションのロビーでのカルテット。持ち時間は40分。客席は100席で、立ち見もあり。観客はマンションの住人で、小さいお子さんからご年配の方まで幅広い。プログラミング、どうしようか?」

 奏の言葉に、皆でうーんと考え込む。

 「やっぱり耳馴染みのある曲がいいですよね。クラシックでも、どこかで聞いたことあるような」
 「そうだな。あとは、口ずさめる曲とか子ども向けの曲」

 いくつか思いついた曲名を、ホワイトボードに書いていく。

 「じゃあ、今楽譜があるものだけでも音出ししてみようぜ」
 「はい」

 四人で半円を描くように座り、お互い顔を見合わせて頷く。

 楽器を構えてひと呼吸置くと、ファーストヴァイオリンの朱里が身体を使って合図を出した。

 四人は同時にスッとブレスを取り、一斉に弓を弾く。

 ザッと初めの一音が鳴り響き、朱里は空気が変わったのを感じて四人が奏でる音楽に浸った。