朱里の家の前で車を停めた菊川が、後部座席の瑛の横のドアを開ける。

瑛は車を降りて反対側に回り、菊川が開けたドアから、中にいる朱里に手を差し伸べた。

「ありがとう」

朱里は瑛の手を借りて、ゆっくりと車を降りた。

改めて二人で向かい合う。

「今日は本当にありがとうな、朱里」
「こちらこそ。こんなに素敵なドレスやアクセサリーも用意してもらって、ヘアメイクやネイルまで」
「あとは、料理も?」
「そう、美味しいお料理も!」

二人はふふっと笑い合う。

「いつもはただ義務感だけでつまらないパーティーに参加してたけど、今夜はなんだか楽しかったよ。朱里、そのドレス凄く似合ってる」
「え、そうかな…」

今さらながら、朱里は照れてうつむく。

「ああ、見違えたよ。あの会場で一番朱里が輝いてた。ヤローどもがみんなお前を見てて、蹴散らしたくなったよ」
「そんな大げさな。綺麗な女の人たくさんいたわよ?」
「お前…分かってないな。お前がにっこり笑って握手する度、相手の男がどんな目でお前を見てたと思うんだ?」

どんな目…?って普通の目?と、朱里は首をかしげる。

瑛は、はあとため息をついた。

「朱里、無防備過ぎるぞ。そんな綺麗な肩出して、背中やうなじも見せつけて。その上あんなににっこり笑うなんて、危なくて仕方ない」
「え、そんなこと言われたって…」

見慣れない正装姿の瑛から、聞き慣れないセリフを言われ、朱里はなんだか落ち着かなくなる。

「その…、瑛だって凄くかっこよかったよ」
「えっ?」
「瑛こそ、見違えたよ。私のことスマートにエスコートしてくれて、年上の人達とも対等に会話して。英語で話したり、女性とダンス踊ったり。びっくりした。私、瑛に見とれちゃったよ」

そう言って笑いかける朱里に、瑛は思わず顔を赤らめる。

「だから!そんな格好でそういうセリフを男に言うなってば!」
「なあに?瑛、照れてるの?やだ!可愛い」
「バカ!」

瑛は慌てて踵を返す。

「じゃあな、おやすみ。菊川、早く出せ!」

バタン!と車のドアを自ら閉める瑛に、おやすみなさーいと朱里は笑って手を振った。