「それで来週、和歌山県に下見に行く予定です。コンサートホールと地元の楽団を訪問して、詳しいお話を聞いてきます」
「分かった。依頼はコンサートホールから頂いたんだっけ?」
「はい、そうです。子ども達を集めて、生のオーケストラを楽しんでもらいたいと」

食事をしながら、瑛が社長に説明する。
朱里も黙って話を聞いていた。

「じゃあ、いつものように二人に任せるよ。よろしくな」
「はい」

朱里と瑛が二人で返事をして、仕事の話は終わった。

「朱里。ほら、サラダ」

瑛が朱里の皿に料理を取り分けてくれる。

「あ、うん。ありがとう」

すると雅が、ん?と首をひねった。

「ねえ、さっきから妙にいつもと違う雰囲気なんだけど。あなた達、何かあったの?」

えっ!いや、何も…と、瑛と朱里は口を揃えてうつむく。

「やだ!なに?その少女マンガみたいなウブな反応。見てるこっちが恥ずかしくなるわよ」

何も言えずに赤くなる二人に、隅に控えていた菊川までもが口を開く。

「お嬢様もそう思われますか?私も先程、車の中でお二人の様子が妙によそよそしくて、気になっておりました」

ますます固まる二人に、皆は、ははーんとしたり顔になる。

「えーっと、来週二人で和歌山に行くのね?桐生グループのホテルがあるから、私から予約しておくわ。菊川、あなたは同行しなくていいから」
「かしこまりました」

なぜか雅が話題を変えるが、何か思うところがあるらしい口調だった。

「たまには二人でのんびり楽しんで来なさいね!」

雅は朱里に、にっこり笑ってそう言った。