慌ただしくも穏やかな日々が過ぎていく。

桐生ホールディングスのCSR活動は広く知れ渡り、依頼の声も多く寄せられるようになった。

(そろそろ人員を増やさないと、このままだと手が回らない)

そう思いながら、瑛は自宅の部屋で仕事をしていた。

時刻は深夜の1時。
夕方から降り始めた雨が強くなり、先程から雷も鳴っている。

(凄い音だな。かなり近い。朱里、大丈夫かな)

幼い頃から朱里は雷が苦手だった。
少しゴロゴロ聞こえてきただけでも泣き出し、怖いよー、瑛くん、ぎゅってして、と抱きついてきたっけ…。

(ま、あいつももう大人だしな。それにこの時間ならとっくに寝てるか)

そう思った時、いきなりバチンと部屋の電気が消えた。

(え、停電?)

カーテンの隙間から外を見ると、やはり辺り一面真っ暗だった。

瑛はスマートフォンのライトを頼りに1階に下りると、懐中電灯とロウソクを探す。

その時、手にしていたスマートフォンに電話がかかってきた。

(朱里か。さすがにこの雷で目を覚ましたか)

そう思いつつ、電話に出る。

「もしもし、朱里?」
「うわーーーん!!瑛ーー!」

いきなり大きな声が聞こえてきて、瑛は思わず耳を離す。

「お前、声デカすぎ」
「怖いよーーー!!雷、イヤー!また光った!部屋も暗いの。うわーーん!怖いー!」
「分かった、分かったから!すぐそっちに行く。待ってろ」

一方的に通話を切り、ロウソクと懐中電灯を濡れないようにビニールの袋に入れると、ウインドブレーカーを羽織って玄関を出た。

「うわっ、凄いな」

横なぐりの雨と風に、これでは傘も役に立たないだろうと、フードを深くかぶって走り出す。

朱里の家の玄関先でウインドブレーカーを脱ぎ、雨粒を払い落とすと、インターフォンを鳴らした。