「朱里?ごめん。今食べる物持ってくるから、座ってて」
 「え?挨拶回りは?」
 「あれは嘘だ。とにかく座ってて。すぐ戻る」

 朱里がもう一度腰を下ろすと、言葉通りすぐに瑛が戻ってきて、料理を盛り付けたプレートとミネラルウォーターのグラスを渡してくれる。

 「ありがとう!」
 「好きなだけ食べて。デザートもあとで持ってくるから」
 「うん。瑛は食べないの?」
 「ん?そうだなー。朱里が食べて美味しかったもの教えて。あとでそれを食べる」

 ええ?と朱里は驚く。

 「なーに?それって私は味見役なの?」
 「はは!まあ、そうかもね」
 「ひどーい!いいもん。美味しくても教えないから」

 朱里が頬を膨らませると、瑛はふっと笑ってから朱里の隣に座った。

 「朱里」
 「ん?何?」
 「…さっきの話、どうするの?」
 「さっきの話って?」
 「東条さんの、マネージャーの話」

 聞いてたの?と朱里は驚く。
 
 「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど」
 「そう。私もいきなり言われて驚いただけ。何も考えてないよ」
 「じゃあ、これから考えるの?」
 「うーん…。東条さんのお話だけではなくて、色々自分の将来の事は考えなきゃと思ってるの」

 そっか…と瑛は小さく呟く。

 料理を食べながらふと会場内を見ると、瑛の両親がにこやかに他のゲストと話をしている姿が目に入った。

 二人は腕を組み、ピタリと寄り添っている。

 「おじ様とおば様って、いつまでも仲良しなのね。いいなあ」
 「ああ。若い頃親父がおふくろに一目惚れして、猛アタックしたらしい」
 「えっ!そうなの?一目惚れから結婚に漕ぎ着けるなんて、素敵だわ」
 「俺にしてみたら、一目惚れより幼馴染の方がよっぽど結婚までは難しいと思うけどね」

 ん?どういうこと?と思いながら、朱里はローストビーフを口に運ぶ。

 (んー!これ凄く美味しい!)

 そう思っていると、瑛がニヤリと笑った。

 「俺もそのローストビーフ取ってこようっと」
 「え?私、何も言ってないよ?」
 「バーカ、何年一緒にいると思ってんだ?お前の考えてることなんて、手に取るように分かる」

 うぐっと朱里は返す言葉がなかった。