幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

 「これはこれは、こんな田舎へようこそお越しくださいました!町役場の長島と申します」

 小さな空港に降り立ち、ゲートを通り抜けた途端、30代くらいの小柄な男性ににこにこと声をかけられた。

 「あ、初めまして。栗田と申します。隣は桐生です。あの、良くお分かりになりましたね、私どものこと」
 「はい、それはもう!東京の都会のオーラが出てらっしゃいますもん。こんな田舎にそんなオーラを出す者はおりません。ははは!」

 どんなオーラだ?と思いながらも、朱里はとりあえず笑って頷く。

 「長旅でお疲れでしょう?そやけど、ここからまだ車で1時間かかるんです。すみません」
 「いえいえ!迎えに来てくださって、こちらこそありがとうございます。景色の綺麗な所なので、見ていて飽きません」
 「そう言うていただけたら助かります。さ、ただのワゴン車ですけど、どうぞ」
 「はい、ありがとうございます」

 朱里は瑛と、後部座席に並んで座る。

 「ほんなら安全運転で参ります。信号もめったにありませんし、渋滞なんてまったくありません。時々、イノシシが飛び出してくるので、その時だけは急ブレーキにご注意ください」

 イノシシー?と思いながら、はいと返事をする。

 長島の言葉通り、のどかな田園風景の一本道をひたすら真っ直ぐに進む。

 朱里は運転の邪魔にならないように、控え目に声をかけた。

 「長島さん。今回私どもに依頼してくださったのは、何かきっかけがあったんですか?」
 「あー、それなんですけどね。うちの町の中学生が、ネット配信?でしたっけ?何とかっていう動画で見たらしくて、そちらのコンサートの様子を。調べてみたら、なんか田舎にも来てくれるらしいって分かって、私に頼んできたんです。呼んでくれって」

 へえー、動画?と朱里は考え込む。

 桐生ホールディングスが発信しているSNSに投稿した、コンサートのダイジェスト版のことだろうか。

 いずれにしても、中学生が動画で見つけてくれるなんて、今どきだなあと感心する。

 「その中学生達、吹奏楽部なんです。一度でいいから大勢でステージの上で演奏してみたいって言うんで、私がそちらにメール送らせていただいたんですよ。まさかお返事もらえるなんて思ってなくて、びっくりしましたよー」
 「え、そうなんですか?」
 「そりゃだって、桐生ホールディングスなんて大きな会社の人が、こんな田舎のこと気にかけてくれるなんて。もう町中ひっくり返るくらいの騒ぎになりましたよ。今日も、芸能人がやって来るーって大騒ぎです。あはは!」

 げ、芸能人ー?!と朱里は仰け反る。

 「あの、私達、一般ピープルです。皆さんと何も変わりませんよ」
 「そやけど、東京から来はったでしょ?そしたら芸能人ですわ。『未来のために、桐生ホールディングス!』ってCMでもやってますしね」

 どんな理屈ー?と朱里は眉をひそめる。

 「ほら!着きました。ここが市民会館です」

 え!と朱里は身を乗り出して外を見る。
 車がゆっくり停まり、朱里は降りて建物を見上げた。
 古い造りだが大きくてしっかりした建物だった。

 「老朽化は進むし維持費もかかるし、何よりニーズがなくて。半年後に取り壊しが決まったんですわ。さ、どうぞ。みんなソワソワしてお二人を待ってます」

 ん?みんな待ってる?と、またもや首をひねりながら、朱里は瑛とホールの中に足を踏み入れた。