「あー、えーっと、瑛。今度、優と一緒に遊園地行かない?」
 「あー、いいや。ごめん」
 「そっかそっか!ううん、いいの」

 雅は、やたらと明るく笑って言う。

 「んー、お、そうだ!瑛、今度イギリスに出張に行くけど、お前も行くか?」
 「あなたっ!だめよ!」
 「お父様!イギリスは…」
 「あっ!そうか、しまった…」

 瑛は食事の手を止め、ふっと笑って皆を見る。

 「そんな腫れ物扱いしないでくれ。俺、別に平気だから」
 「えっでも…。やっぱりなんか元気ないし、落ち込んでるみたいだから」
 「大丈夫だって!ただちょっと、自分が情けなくてさ」

 そう言うと、ごちそうさまと立ち上がって2階の部屋へ戻った。

 ベッドに寝転んで天井を見上げる。

 聖美の側から正式に破談が伝えられてから2週間。

 家族は自分を心配して、なんとか気を紛らわせようとしてくれる。

 そんなふうに気を遣わせてしまうのも、心苦しかった。

 「ほんと、情けないな、俺」

 桐生家の長男として、持ちかけられた見合いの話を受け入れ、朱里への未練を断つ為に友達関係を解消した。

 精一杯努力したつもりだった。
 朱里から遠ざかり、聖美に丁寧に接し…。
 過去の思い出を封印し、これからの聖美との生活をしっかり守ろうと思っていた。

 だが、何一つうまくいかなかったのだ。
 自分は誰も幸せに出来なかった。

 それどころか、傷つけてしまった。
 聖美を、そして朱里も。

 「最低だな、俺」

 立ち直る自信もなかった。