「まったくもう!自分から、もう前みたいには話せないって言ったんでしょ?それなのに、あっさり自分がボロ出しちゃうなんて…」

休憩室の自動販売機でミルクティーを買いながら、朱里はブツブツ文句を言う。

ガコン!と落ちてきたペットボトルを手に廊下を歩き出すと、前から瑛が菊川と共にやってくるのが見えた。

「朱里さん、お疲れ様です」
「菊川さん、お疲れ様です」

にっこりと二人で挨拶する。

「今日は定時でお帰りですか?瑛さんと一緒に車でお送りします」
「いいえ、大丈夫です。平社員が部長と一緒に車で送って頂くなんて滅相もないですから」

すると、隣にいた瑛がボソッと言う。

「俺は親父と帰る。菊川、彼女を送ってくれ」
「かしこまりました」

朱里はムッとして語気を強める。

「いいえ。部長の秘書の方に送って頂く訳にもいきません!では、失礼します」

頭を下げてから横を通り過ぎようとすると、ちょっと待てって!と瑛が朱里の腕を掴んだ。

「はあー?部長、セクハラですよ」
「おまっ、何を言って…」
「それから、下の名前を呼び捨てにするのもやめてくださいね」

瑛はうつむいて、あれは悪かったと素直に詫びる。

「それでは失礼します」

もう一度頭を下げると、また瑛が呼び止めた。

「社長が君に、家で夕食を一緒にと言っていた。もちろん断ってくれてもいい」

社長が?と足を止めて振り返る。

「ああ。例の件の進捗状況を聞きたいと」
「承知しました。伺います」
「分かった。菊川、彼女をうちに送ってくれ」
「かしこまりました」

じゃあ、と瑛は踵を返す。

「朱里さん。定時になったらエントランスのロータリーでお待ちしていますね」
「はい、よろしくお願いします」

では、と菊川は笑顔を残して瑛のあとを追っていった。