「一人で頑張らせてごめん。いっぱいいっぱいだったよな。それでも……俺を見ようとしてくれてありがとう」



――溢れ出す。


心を震わせて泣くことはやめたはずだったのに。




「う、うあ……うあああああん!!!!」




(そっか、私は泣きたかったんだ。 ずっと自分のために泣いてなかったから)



強くあろうとした。

強く生きるのが葉緩の支えだった。

自分のために泣くことのなかった葉緩は、強さを手に入れたのに自身の悲しみが欠落していた。


この腕の中は、葉緩が甘えていい場所。

笑うことも、泣くことも、全部許されるあたたかい居場所だ。



「葉緩、好きだ。大好きだ。……今度こそ、一緒に生きてくれる?」

「――っはい! 私、葵斗くんが大好きです!」



何も後ろめる必要はない。

必要なのは、葵斗を求める心だけ。




「葉緩、かわいい。 ほんと、手を出さずにはいられないよね」



すっかりとろける想いに身をゆだねていた葉緩に襲いかかるは葵斗の毒牙。

額や頬に触れたかと思うと、葉緩の唇を塞ぎ、背中を撫でていた。





「え、ちょっと!? んっ──! もうっ……葵斗くん不真面目になりすぎです!」

「長年我慢してたんだからちょっとくらい解放感あっていいでしょ?」



突如、いちゃつきだした二人に咲千代は呆然とする。

壁に寄りかかりながら口端から流れる血を拭う。



「……なんなのよ、なんで」



黒いリボンで高く結い上げていた髪がほどける。

灰色の瞳が動揺し、ゆらゆらと揺れていた。