「これは貧乏くじを引いたのか。いや……でも面白いかもしれない」


蒼依の弟、依久は一つ下の15の歳。

蒼依と同じ黒髪だが、瞳は灰色で冷静な顔立ちをしている。

ほとんど葉名と会話をしたこともなく、蒼依とも仲の良い印象はなかった。

里長の長子として皆から愛される蒼依に対し、依久は影になりがちで目立っていなかった。



「ほら、さっそく面白いことになりそうだ」



ニヤッと笑い、依久が指さした方には蒼依が立っていた。

呆然としてこちらを見つめている。



「なんで……」

「蒼依く――」

「まぁ、やっぱり! 私の枝は蒼依様と絡み合ってますわ!」

そこに訪れたのは、頬を赤く染めた穂高であった。

嬉しそうに目を細め、蒼依の腕に抱きついている。

それを目にして胸がズキズキと痛む。



「これで私と蒼依様は夫婦ですね。 正式に嫁ぐ日が楽しみですわ」

「穂高、俺は……」

「兄上。無事に連理の枝が実りましたこと、お喜び申し上げます」



葉名の腕を掴み、蒼依の前へと引いていく。

葉名の憂いを気にも留めず、依久は爽やかに微笑む。



「オレもまた、先の予定ではありますが番がわかりましたので安心しております」


肩に手を乗せられ、蒼依に見られ、とたんにゾッと血の気が引いた。

目を背け、雪の積もった足元を見る。



「よくご存知だとは思いますが、我が番となるのは葉名です」

「葉名……」


弱くか細い声に、胸が締め付けられる。



(顔を見ることが出来ない。あの色を見たらきっと私は、海のように泣き続けるでしょう)



ただただ悲しくて、つらくて、耐えられなかった。



「私はこれで失礼します。 ……どうか、お幸せに」

「──葉名っ!!」

「おっと、兄上には素晴らしい番がいるではありませんか。副長の娘とは将来も安泰ですよ」



蒼依に手を伸ばす勇気さえない。

恥ずかしさも入り混じり、葉名はその場にいることが出来ずに走り去る。

反射的に蒼依が手の伸ばそうとするも、依久の手がそれを制してしまう。