荒れた教室で満足し、どやっている葉緩に咲千代は目を見開く。

唇を噛んで怒りの琴線(きんせん)をブチぎった。



「なっ……ふざけないで! イチャイチャとか馬鹿にしてるの!?」

「ふざけてません! 私の信念は大切な人たちが結ばれて幸せになってもらうことです!」



譲れないことはバカにされても貫いてみせる。

葉緩の推奨する比率が自分より相手の幸せが大きいだけのことであった。



「それは葵斗くんも同じこと! 葵斗くんの幸せが私にあるというならちゃんと考えたいのです!」



逆を言えば相手の幸せと自分の幸せの正しい比率がわからない。

自己犠牲の精神が優勢であった。

ようやくそのことを自覚し始めた葉緩は、そこだけに曇った気持ちを抱いていしまう。




「……それで大切な人が幸せになってくれれば、私はそれで満足なのです」

「葉緩、一つ訂正して」



葉緩の言葉に、葵斗は鋭く指摘する。



「葉緩が好きな人と結ばれて幸せになること。大切な人と一緒にいて幸せになること。これ、外しちゃダメだよ」



真っすぐな深い青に魅入られていく。



「葉緩が幸せにならないと、葉緩を大切に想う人は寂しい思いをするんだから」

「……ホント、ずるい人です」



胸が高鳴っていく。

唇を尖らせずにはいられない。


これでは目をそらすことさえ出来ないと葉緩は悔しくなる。


鈍いばかりの葉緩でも気付いてしまう。

すでに葉緩は葵斗の広げた沼にはまっている。


溺れそうになるほどの愛に葉緩はもう逃げたいと思っていなかった。