「葉緩? どうしたんだ?」


翌日、いつものように絢葉と並んで座り、宗芭と向き合う。

酸っぱそうに顔をしぼめた葉緩に宗芭は戸惑いながらも問いかける。


「……その、父上は何故母上と夫婦に?」

「……! 急にどうした!? ……今まで全く関心がなかったではないか」



冗談かと思い、ギョッとしていたが真剣にこちらを見つめてくる葉緩に本気だと理解する。

葉緩ももう年頃の年齢であり、昔で言えば結婚していてもおかしくない。

今までが自分の恋愛に無垢すぎたことに違和感さえあった。

盲目に、主への忠誠心だけが葉緩を生かしていると宗芭は感づいていた。

その生き方が変化するのが今なのだろう。



「父上は……父上の主様と母上、どう思っていらっしゃるのですか?」

「……主も母上も一般の人だった。……比べられないくらいに大切な存在だ」

「……その、匂いというものを」



“匂い”。

その単語に宗芭は膝を崩し、畳に手をついた。



「お前、まさか……!」

「姉上、これを」



変化の正体に動揺した宗芭を止めるように絢葉が懐から一枚の紙を取り出し、葉緩に差し出す。

きょとんと首を傾げ、紙を広げると葉緩の目がカッと大きく開かれた。



「――これは!?」

「先にコピーをとってまいりました。安心して登校されてください」

「葉緩、それは何だ?」

「な、なんでもございません! 私、学校に行ってまいります!」



ダラダラと汗を流しながら血相を変え、葉緩は家から飛び出していく。

走りながら制服に着替える雑さに宗芭はため息をつく。



「絢葉、何を見せた?」

「姉上が帰られたらわかりますよ。それより、父上は余計なことは口にしないでください」



ニタリとあくどく笑う絢葉に宗芭は背筋を震わせる。

絢葉が葉緩に渡したのは昨日行った数学のテストの記入済み答案用紙であった。

その結果に葉緩は逃亡したのであった。



「振り回される姉上は面白いでしょう?」

「……ひどい弟なものだ」



やたらと葉緩が焦る姿を見て楽しむ癖がある。

どちらも将来が心配だと宗芭の悩みは尽きなかった。