忍びとして一定の距離を保つことを念頭においていた葉緩には交友関係を築くことが難しかった。

友達のいない孤独がいかに柚姫にとって辛いものだったかを想像でしか思うことが出来なかった。

泣くばかりでなかなか向き合うことの出来ない二人の様子に、ついにクレアが苛立ちを爆発させる。

じれったいと目を鋭くさせていた。



「この際だからアタシが聞いちゃうわ。 あんた、桐哉くんのこと好きなの?」


ギョッと葉緩の目が大きく開かれる。



「そんなことあるわけないじゃないですか!」

「うそ! だって葉緩ちゃん、桐哉くんの前だともっと変になるもん!」

「へ、変……」


ーーガガーンッ!!


目立たずに行動していたつもりだったので、衝撃を受ける。

そのまま柚姫は葉緩のショックを通過して話し続けた。



「誤魔化すの下手だよ。あたしが桐哉くん好きだから遠慮してたんだよね? ごめんね、ずっと辛い思いさせちゃったよね?」


(なんということ……! “私”が主様と姫の妨げになっていたとは!)


「違います! 私は心から姫と桐哉くんを応援してますので!」

「……葉緩ちゃん、かわいいし。あたしだって、葉緩ちゃんなら応援する」



勘違いをした柚姫の暴走はとまらない。



「葉緩ちゃんは大事な友達だもん! 友達なら身を引くしちゃんと応援するもん! なのに葉緩ちゃんは何にも話してくれないんだあ!」

「……どうするのよ、これ」


声をあげ、子供のようにわんわんと泣く。

はじめて葉緩は柚姫に悲しい思いをさせてしまったと恥じていた。



「……姫。私は本当に姫のこと、応援しています。もちろん桐哉くんも大切な方なので同じくらい応援したいと思ってますので」

「葉緩ちゃん……」

「でももう一つ、ちゃんと伝えねばならないこともあったようです」


柚姫の前に膝をつき、手を伸ばして抱きしめる。

柚姫の瞳にキラキラが映り込む。


葉緩は反省し、忍びの自分を捨てた。

忍びの葉緩ではなく、ただの葉緩として柚姫と向き合った。