「うぅ……うえええん! 葉緩ちゃんのばかぁ! 脳筋ーっ!」

「ええっ!?」


(姫の様子がおかしい……。一体なにが?)


ここでようやく冷静になり、現状分析をはじめる。

この荒れようは普段温厚な柚姫とまったく異なる。

何かが柚姫に影響を与えているのだと考え、あたりをつけていった。


(秘薬入りのクッキー!)



そこでようやく柚姫の制服の上ポケットに、葉緩とおそろいのラッピングがされたクッキーの袋を発見する。

この場で食べていたのはクレアのクッキーであったが、その前に秘薬入りのクッキーを口にしていたのであった。

葉緩は柚姫に駆け寄り、肩を掴む。


「クッキー食べちゃったのですか!?」


慌てて柚姫の涙を拭おうとする葉緩に、柚姫は遂に本音をぶちまけた。



「バカバカ! なんで何も言ってくれないのー!」

「……姫?」

「あたしたち、友達じゃないの? 友達って相談したり、色んなこと話すものじゃないの!?」



ボロボロと顔をぐしゃぐしゃにし、涙を止める気配もない。

だが柚姫が真剣なのがわかり、葉緩は戸惑いながらも柚姫に向き合った。



「こういうのわかんない。どこまで話していいとか、察するとか、全然わかんないよ」


柚姫には友達が葉緩以外いなかった。

一年生の時はあくまで葉緩は遠くから柚姫を観察していた。

とてもやさしく、笑顔の愛らしい子だと思っていたがいつも一人だった。

時々、他クラスだった桐哉が顔を出し、柚姫に声をかけていることから恋心を察した。


二年生になり、同じクラスになったこともあり葉緩は柚姫に声をかけた。

自然に仲良くなるにはちょうどいいタイミングだと考えたからだ。

それがひとりぼっちだった柚姫にとってどれだけ嬉しいことだったか、葉緩はまったく気づいていなかった。



「うぅ……うううー!」

「この子、アタシと言いたいこと噛み合ってないじゃない」

「うああああん!!!」

「何故アタシに抱きつくの!? 相手間違えてるわよ!」

「姫、私は……」


何一つ、柚姫の気持ちをわかっていなかった。

今もわかっていない。

葉緩もまた、誰かと親密になるということに慣れていなかった。